- Recollection of MAPP in U-Penn
- ペンシルベニア大学 MAPP回想録
- ポジティブ心理学の第一人者から何を学んだのか?
#7 天職とは:強みを仕事に活かす
天職とは
英語では “calling”(天からのcall―お告げ―といった意味合いでしょうか)と言いますが、そもそも天職とは一体何でしょうか?
その人の天性の強みや個性、経験など全てが活かされた仕事で、働くことを楽しみながらも他の誰にも真似できないような素晴らしい成果を発揮できる―。
私にはそんなイメージですが、皆さんはいかがでしょうか。
天職と聞いて私が最初に思い浮かぶのは、 お笑いタレントの明石家さんまさんです。彼は、寝る間も惜しんで仕事(彼の場合は主にしゃべる事が仕事ですね)をするそうですが、プライベートの時間でも仕事の時と何ら変わらずしゃべり続けているそうです。そして何より、いつも元気一杯で誰よりも楽しそうです。しゃべって人を楽しませるという仕事が、彼にとって得意中の得意で、やればやる程エネルギーがみなぎり、毎日そんな仕事ができている―。もちろん、人には分からない努力や苦労もあったのでしょうが、彼を見ていると心底羨ましいといつも思ってしまう程です。
働くことは楽しみ?それとも義務?
ロシアの作家ゴーリキーの言葉にこうあります。
「働くことが楽しみなら、暮らしは素晴らしくなる!
働くことが義務になったら、一生奴隷ぐらしだよ!」
まさにその通りだと思います。ですが、現実はどうでしょうか。
アメリカで行なわれたある研究によると、70%以上の国民が仕事を大きなストレス源と捉えているそうです。
とりわけ日本人は他国に比べて労働時間が長い事で知られています。
OECDによると、日本人の1日当たりの平均労働時間は373分(休日も含む)―と
OECD26カ国の中でも最長で、最も短いフランス人(173分)の2倍以上にもなるそうです。
仕事が大きなストレスで、しかもその仕事に人生の大半の時間を費やしているという現状―。ではどうすれば働く時間を減らしたり、働くことをもっと楽しめるでしょうか?
強みを仕事に活かす
これらの問いに対するアプローチの仕方は、ミクロ・マクロレベルで様々あると思いますが、ポジティブ心理学が教えてくれる最もシンプルな答えは、皆さんもきっと既にご存知の通り、「自分の強みをよく知り、日々の仕事や生活の中でもっと使うこと」です。
なぜなら、強みを仕事に活かせている人はそうでない人に比べて、仕事に対する満足度・生産性が共に高いことが分かっているからです。
具体的には、強みを仕事に活かせている人は
・充実感がある
・自信がある
・モチベーションが高い
・従業員満足度が高い
・生産性が高い
・目標達成率が高い
・レジリエンスが高い
・ストレスが低い
など、良い事づくめの研究結果が出ています。
強みを知る方法として、VIA、ストレングスファインダー、Realise2 などの、ポジティブ心理学の研究に基づいて開発された強み発見ツールを活用することもできます。
私自身も翻訳に携わったRealise2(公式出版はされていません)の主な開発者でもあるアレックス・リンリーは「強み」を次のように定義しています。
「強みとは、最も自分らしいと感じるその人本来の特有の振る舞い・考え方・感じ方で、
エネルギーを感じ、最大限の力を引き出し、高い成果をもたらすもの」
つまり、自分らしくありのままでありながら、仕事をすればするほどエネルギーがみなぎり、ついでに高い成果もついてくるわけです。
まさに、明石家さんまさんですね(笑)
ここで注目すべき点は、どんなに高い成果をあげる事ができても、そこからエネルギーがみなぎり自分らしさを感じなければ、それは単なる能力であって本来の「強み」ではないという事です。器用な人や要領のいい人ほど、多くのことをそつなくこなし、そこそこの成果をあげてしまうので、それを強みと勘違いしてしまう場合も多いようですが、そうではありません。
ペン大交通整理の“名物おじさん”
最後に、強みを上手に仕事に活かす人をもう一人ご紹介したいと思います。
私がペンシルベニア大学在籍当時(2005~2006年)、混み合うキャンパス前の交差点で毎朝交通整理の仕事をしていた、ペン大ではちょっぴり有名人の“名物おじさん”です。MAPPのクラスでもよく話題になっていました。
交通整理と言えば、夏は暑く冬は寒く(フィラデルフィアの冬は摂氏がマイナスまで下がることもよくあります)、長時間立ちっぱなしで体力的にもきつい上に、人に感謝されることも滅多にないでしょう・・・。でも彼は、持ち前のユーモアと遊び心を最大限に活かし、時には踊りながら、時には笛で曲を奏でながら、また時には道行く人と冗談を交わしてケタケタと大笑いしながら、何とも楽しそうに毎朝交通整理をしていました。そして、その交差点を通る全ての人を楽しませていました。彼の仕事が多くの人の安全を守ってくれたことは言うまでもありませんが、それ以上に一体何人の人が彼の“エンターテイメント”に癒され、元気をもらった事でしょうか。
(YouTubeに出ていましたので興味のある方は是非ご覧ください。)
https://www.youtube.com/watch?v=7zFKSUbp6-8
天職とは必ずしも、一部のラッキーな人にだけ天から与えられる“完璧な”仕事ではないのかもしれません。
時にはストレスを感じてしまうような今の与えられた環境の中ででも、創意工夫をして本来の強みを最大限に活かす方法を見つければ、同じ仕事でも限りなく天職に近づくことができるのかもしれません。
彼の仕事ぶりを見ていて、ふとそう思いました。是非学んでいきたいものです。
(第8回に続く)
執筆者の紹介
神谷雪江
米・ペンシルベニア大学大学院 応用ポジティブ心理学修士課程(MAPP)第一期生。修了後は、日本で人事コンサルティング会社に勤務し、ポジティブ心理学の、組織・人事への応用に従事。2009年より米・ボストンに移り、グローバル人材の採用や翻訳業に従事。 強み診断ツール「Realise2」の翻訳にも携わる。