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#10 Other People Matter.

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シリーズでお付き合いいただきましたMAPP回想録も、早くも10回目を迎え、いよいよ最終回となりました。最終回にふさわしいテーマは何だろう・・・と考えてみたら、迷わずこのテーマに辿り着きました。

“Other people matter. (period)”

これは、クリス・ピーターソン教授(以降、クリス)の有名な言葉です。彼の講義やスピーチを聞かれた事がある方であれば、一度は耳にした事があるのではないでしょうか。 クリスは、ポジティブサイコロジーをマーティ(セリグマン教授)と共に切り拓いた、ポジティブ心理学研究の第一人者の一人です。また、マーティと二人三脚で草創期のMAPPを築き上げた、名実共に大功労者です。

ポジティブ心理学とは何か?その様々な研究が私たちに教えてくれる事は何か?― これらの問いに対して、彼自身が行き着いた究極の答え― それがまさに、”Other people matter. (period)” という最もシンプルな言葉なのでした。

ポジティブ心理学と“Other people matter.” との関連性について、クリスが自著でも紹介しているエピソードを一つご紹介したいと思います。(“Pursuing the Good Life: 100 Reflections on Positive Psychology”)

過食を乗り越えた女性のお話

ストレスのあまりに過食を続けていたナンシー。食べたら落ち込み、そのストレスから更に食べるという悪循環・・・とうとう体重は300キロを越え、家に引きこもったまま家族以外の誰とも会わない生活が続いていました。そんな彼女を心配した家族が、彼女に新しいパソコンをプレゼントした事がきっかけで、インターネットを通じて新しい友人ができました。もちろん、顔や見かけで判断されることのない友人でした。

彼らとのインターネット交流を通じて、ナンシーはやがて次の日が来るのが楽しみになり、自分の事をもっと大切に思えるようになりました。「顔も知らない人たちだけど、彼らは私の内面をありのまま受け入れてくれたんです。」とナンシーは後に語っていたそうです。たちまち、彼女の体重は減っていきました。ダイエットをしたわけではなく、薬や手術に頼ったわけでもありません。単純に、過食の習慣がなくなったのです。そして3年後には、240キロもの減量に成功したのです。

「たった20キロでも痩せられたらどんなに幸せか・・・ってずっと思っていたけど、逆だった事にようやく気がつきました。」—と彼女自身も振り返っていた通り、ナンシーは減量できたから幸せを手にしたのではなく、ありのままの自分で幸せを実感できた事が減量につながったのです。そして、ありのままの自分で幸せを実感できるように変われたのは、まぎれもなく新しい友人の存在があったからなのでした。(“Pursuing the Good Life: 100 Reflections on Positive Psychology”)

これはほんの一例ですが、“本当に幸せな人生とは?”と考えた時に、other people(自分以外の誰か)の存在が不可欠である事は、ポジティブ心理学の数々の研究が示しています。それ以上に、実際に私たちの日常生活の中で実感する事も多いでしょう。 (それなのに、私自身を含め多くの人は、ナンシーのように「あと◯キロ痩せさえすればもっと幸せなのに・・・」とか、「もっとお金があれば楽しいだろうなぁ・・・」などとつい思い込んでしまうのは、人間のさがなのでしょうか。)

幸せ体感マシーンで過ごす、幸せだらけの人生・・・!?

最後に、MAPPの授業でも何度か議論になった、「幸せ体感マシーン」の話をご紹介します。 大半の人にとって、人生の最大の目的の一つは「より幸せな人生を送ること」だと思いますが、仮に(非現実的なのはさておき)、幸せの絶頂の感情を体感させてくれるマシーンがあったとして、そのマシーンを装着すれば産まれてから死ぬ瞬間まで何の苦しみも不幸も味わうことなく過ごせるとしたら ・・・そんな幸せだらけの一生を送りたいですか?

もちろん答えは「ノー」でしょう。 なぜでしょうか?幸せな感情は100%保証されていて、誰もが避けて通りたいと願う苦難や不幸を一度も味わう必要がないなんて夢のような話なのに・・・。 ここでもやはり言えることは、家族や友達など大切な人とのつながりがなけれは、どんなに幸せな感情も意味がないという事です。 Other people とのつながりを通してしか、私たちは本当の意味での幸せを味わえない生き物なのかもしれません。

We are the other people, too…

そして、私たちもまた、他の人にとっての “other people” であり、日々の生活を通して他の人の人生や幸不幸に、私たちが想像する以上に大きな影響を与えている大切な存在である事を忘れずにいたいものです。これはクリスが残してくれた大切なメッセージでもありま した。

2年前(2012年)の10月、余りにも突然で早い死を迎えてしまったクリス―。 私自身、卒論の指導教官としても大変お世話になり、著名な研究者でありながらどこまでも謙虚で、私のような一学生にまで常に細やかな心配りをしてくださる方でした。まさに彼は、ポジティブ心理学の体現者でした。 彼の口から何度も耳にしたこの言葉が、心の中に響いています。

“Other people matter. (period)”

尊敬するクリスへ、心からの感謝を込めて・・・

MAPP回想録にお付き合い下さった読者の皆様、ありがとうございました。

2014年11月27日

執筆者:神谷雪江(かみや ゆきえ)

米・ペンシルベニア大学大学院 応用ポジティブ心理学修士課程(MAPP)第一期生。修了後は、日本で人事コンサルティング会社に勤務し、ポジティブ心理学の、組織・人事への応用に従事。2009年より米・ボストンに移り、グローバル人材の採用や翻訳業に従事。 強み診断ツール「Realise2」の翻訳にも携わる。