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#6 PP応用の小さな成功ストーリー


今回は、前回に引き続きMAPP の「A」に着目し、当時のクラスメイトたちのポジティブ心理学(以下、PP)応用に関するエピソードをご紹介したいと思います。今となっては有名企業や学校規模でのPP活用の成功ストーリーも沢山ありますが、前例のなかった実験台の1期生たちの草分け的なエピソードとしてお読みいただければと思います。
 
クラスで議論された様々な「強み」に関するセオリーや仮説を実験的に応用してみるにあたって、最初のターゲットになったのはおそらくMAPP生の家族でした。一番身近でありながら、PPを専門的に知らない人たちだからです。「VIA」の強み診断を半ば強制的に受けさせられた人も多かったはずです。と同時に、最も恩恵を受けたのも、やはり一番身近な家族の人たちである事を思わせた、一人のクラスメイトのエピソードをご紹介します。

小さな成功ストーリー その1

 
当時彼は、超有名企業の管理職を務めており、その上MAPPのフルタイム学生という事で、多忙な日々を過ごしていました。そんな彼が、卒業式のレセプションパーティで話したスピーチが印象的でした。
 
僕は、MAPPに来て本当に良かった。
なぜなら、MAPPのおかげで前よりも仕事が楽しくなったし、前よりも良いリーダーになれたと思う。
でもそれ以上に、本当に良かったと思うことは、
前よりも良い父親、夫になれた事。
そして、もっと良い一人の人間になれた事・・・。
 
誰もが共感と感動を覚えました。
二人の子供を連れて参加していた彼の奥さんも、涙を流して聞いていました。
 
PPの活用の仕方や目的は、ビジネスの生産性や利益を上げたり、組織を活性化したり、 と様々ですが、周囲や組織を変える前に、まず自分自身が変わるということ―。そして、自分が変わって幸せになることで、周りも幸せにできる、という何とも素晴らしい事を、彼のエピソードを通して再確認したのでした。
 
その第一ステップはやはり、自分自身の「強み」をよく知る事でしょう。(と、口で言うのは簡単ですが、自分の強みや弱みをよく知ることは案外難しいものです。)
また、自分自身の「強み」の引き出し方を習得すれば、同様に他の人の「強み」を引き出す手助けができるでしょう 。
 
次にご紹介するエピソードは、そんな、人の「強み」を引き出す天性の才能を持った、一人のクラスメイトのお話です。

小さな成功ストーリー その2

 
彼女は、エグゼクティブコーチとして主に管理職リーダーのコーチングや、グループセッションでのトレーニングを行なっています。PP応用のトライアルアンドエラーを繰り返す中で彼女は、クライアントの「強み」をコーチングの中で改めて「acknowledge」すること(日本語では、認める、承認する、同意する、などの意味)の大切さを痛感したそうです。
 
コーチは、クライアント自身の目標達成のために様々なオープンエンド型の質問を投げかけるそうですが、セッションの中で相手の「強み」を「acknowledge」する事で、その場の空気が一変し、その後のコーチングもスムーズに進むと感じたそうです。
 
始めはあまりPPに関心を示さなかった人や、VIAの結果に懐疑的だったような人でも、 具体的にその人の「強み」を「acknowledge」する事で、本人が課題に取り組む姿勢が前向きになったり、物事を肯定的に捉えられるようになったり・・・。その結果、ゴールがいっきに近づいただけでなく、目標達成へのプロセスがうんと楽しくなったと話していました。
 
人は何かに自発的に取り組んでいる時に最も創造性が豊かになり、最大の成果を出せる―。
というような研究結果も実際に出ている通り、まさにPPの応用が実を結んだ瞬間と言えるのではないでしょうか。私自身の経験からも思うのですが、自分の特徴的な「強み」を客観的に認められることは、まるで自分自身の存在価値そのものが認められたような気持ちになり、モチベーションに大きく影響する気がします。とても単純な事のようですが、その効果の大きさを改めて知ったのでした。
 
是非皆さんも、日々の生活や仕事の中で、皆さんならではのPPの活用を楽しんでみてはいかがでしょうか。
 
 
(第7回に続く)

2014年8月3日

執筆者の紹介

神谷雪江
米・ペンシルベニア大学大学院 応用ポジティブ心理学修士課程(MAPP)第一期生。修了後は、日本で人事コンサルティング会社に勤務し、ポジティブ心理学の、組織・人事への応用に従事。2009年より米・ボストンに移り、グローバル人材の採用や翻訳業に従事。 強み診断ツール「Realise2」の翻訳にも携わる。