マーティン・セリグマン教授『ポジティブ心理学』
TED会議(2004年2月)
マーティン・セリグマン教授は、ポジティブ心理学の創始者の一人として知られています。彼が全米心理学会会長であった1998年にこの新分野を提唱し、その後も米・ペンシルベニア大学大学院教授の職務を遂行すると同時に、ポジティブ心理学分野の研究の支援・発展と次世代のポジティブ心理学者の育成にあたってきました。
セリグマン教授を心理学の第一人者に押し上げたのは、しかしながらポジティブ心理学とは対局の研究でした。それは、病が原因で肉体的にも精神的にも無力になった父親を見たときのショック体験が動機付けとなり、たまたま居合わせた研究室で行われていた犬の実験を観察したときの洞察がきっかけとなった、「学習性無力感」の研究でした。その功績で、セリグマン教授はうつ病と異常心理学の世界的権威となったのです。
ところが、その研究をしているうちに、対象者の中にどれほど失敗やストレスに直面しても、立ち直りが早い人がいることに気付きます。失職・失恋・病気・離別などつらい経験をした後、絶望に打ちひしがれるのではなく、めげずに再起し幸せに生きていく人がいる。なぜか? この疑問が、セリグマン教授を「楽観性」の研究へと導きました。(詳細は「オプティミストはなぜ成功するか」を)
無力感の研究から楽観性へ、そしてさらに包括的なポジティブ心理学へと、セリグマン教授は研究領域を拡大し続けます。初期のポジティブ心理学研究がまとめられた著書(「世界でひとつだけの幸せ」)は欧米でベストセラーになり、幸福度研究がメディアで多く取り上げられるようになりました。その後、セリグマン教授はTED会議に招かれ登壇します。テーマはもちろん「ポジティブ心理学」です。
この講演の中で、セリグマン教授は「心理学は人の短所と同じように強みにも関心を向けるべきである」と語ります。そして「通常の人々の人生をより充実させること」にポジティブ心理学の研究は貢献出来るとしました。それはさまざまな幸福度を測定し、強みと長所を分類して理解することであり、幸福度が非常に高い人とそうでない人との違いを分析することも含まれます(その違いについては、ビデオをご覧下さい)
後半に語られる、幸せな人生を送るための3つの生き方は注目に値します。その考え方は、その後幸福度を高めるための5つの道である「PERMA」に引き継がれますが、初期のポジティブ心理学の考え方を非常にわかりやすく教えてくれます。
ポジティブ心理学の学習者、応用者、そしてよい仕事とは何かを模索し、よい生き方は何かを思索している人には、ぜひおすすめのTEDトークです。