ダニエル・カーネマン博士『経験と記憶の謎』
TED会議(2010年2月) 20分07秒
テル・アビブ(現イスラエル)に生まれ、フランスで育ったカーネマンは、英国委任統治領パレスチナ(現イスラエル)へ移住し、ヘブライ大学で学びました。専攻は心理学で、副専攻は数学。その後、イスラエル軍での兵役を務めたのち、米国へ留学し、カリフォルニア大学バークレー校で博士号(心理学)取得。イスラエルで知り合った盟友エイモス・トベルスキー博士と人間が不確実な状況下で下す判断・意思決定に関する共同研究を行い、その研究が「行動経済学」の誕生とノーベル賞受賞につながりました。現在はプリストン大学名誉教授として、研究活動を続けています。
「トベルスキーが生きていれば当然同時に受賞することになったはずである」とカーネマン博士がノーベル賞受賞記念演説でも述べているように、カーネマン博士とトベルスキー博士は密接な関係性を築き上げていました。それは「共有された二つの頭脳は別々の頭脳に勝る」と後に語るほどであり、真の共同研究の素晴らしさと生産性の高さを証明しています。
このTEDトークでは、「プロスペクト理論」や「期待効用理論」「ヒューリスティクス」などの行動経済学的な内容についてはほとんど触れずに、心理学者としてのカーネマン博士の最新研究である「二つの自己」について興味深い話がされます。
二つの自己とは、「経験の自己」と「記憶の自己」のことであり、私たちは経験と記憶を混同してしまうことで幸福に関して混乱をきたすことがあると伝えます。その説明事例として、有名な大腸内視鏡検査の研究を語ります(その内容は、ビデオをご覧下さい)
二つの自己は、二種類の幸福の観念を生み出す。そのため、「経験の自己」が幸せを感じる瞬間と、「記憶の自己」が満たされる理由は異なることが多い。この「矛盾」に気付くことが、それぞれが全く別物だということを知る事が、幸福に関しての複雑さを読み解く一歩になるとカーネマン博士は語ります。
昨年10月に出版されたカーネマン博士の著書「Thinking, Fast and Slow」の最終章に、この興味深い「二つの自己」についての研究内容が詳しく書かれています。この本はニューヨークタイムズのベストセラーにも選ばれたほどの人気ですが、まだ日本語訳は出ていません。早く訳書が出版されることが望まれます。
講演の終わりにTED会議主宰者であるクリス・アンダーソンが壇上に上がり、カーネマン博士に質問をします。その後の話がおもしろいので、ぜひ最後まで視聴下さい。(ただ、その話の中で「60,000ドルの収入」が米国人の幸福度の境界線であるとされていますが、その後公式発表された論文では「75,000ドル」が境界線であると訂正されています)