ポジティブヘルスとは?
ポジティブ心理学のメンタルヘルスへの応用
カウンセリングや心理療法は、元来「従来の心理学」が専門とする分野でした。しかしポジティブ心理学で効果が証明された幸福優位性を形成し、強みを活用し、人生満足度を高めるといった「ポジティブ・アプローチ」をすることで、うつ病や不安症、睡眠障害などのメンタルヘルス問題の予防と初期改善に活かすカウンセリング及びグループ研修プログラムが開発されています。
このようにポジティブ心理学の研究や手法をメンタルヘルスの問題に応用し、ポジティブ・アプローチによりうつ病の症状などの改善に取り組む分野を「ポジティブヘルス」と言います。
このようなポジティブ心理学の応用が、カウンセラーやEAPなどの専門家を通して職域・地域・学校教育の領域で活用されることで、国内で大きな問題となっているうつ病・自殺者増加問題や医療費増加の課題に対して新たな解決策が生まれることが期待されます。
幸福な人は長生きをする:主観的な幸福度が健康と寿命に貢献する
ウェルビーイング研究の第一人者である、米・イリノイ大学のエド・ディーナー教授らは、7つの要素が高い幸福度に影響することを調査の結果発表しました。それらには、人生の満足度、ネガティブ感情の不在、楽観性、ポジティブな感情などが含まれます。そしてウェルビーイングはより良い健康や長生きにつながることを明らかにしました。
参考:Diener, E. and Chan, M. Y. (2011), Happy People Live Longer: Subjective Well-Being Contributes to Health and Longevity. Applied Psychology: Health and Well-Being, 3: 1–43. doi: 10.1111/j.1758-0854.2010.01045.x
感謝とウェルビーイング
「感謝」研究の第一人者であるロバート・エモンズ教授の調査では、感謝心を育む習慣をもつことで、病気の徴候が減り、ウェルビーイング度が向上、さらには楽観性が高く、肩こりや腰痛などの筋肉神経痛も低減する効果もあったことがわかりました。感謝をする習慣をもつことには、さまざまなメリットが期待できます。
参考文献:Emmons, R. A., & McCullough, M. E. (2003). Counting blessings versus burdens: An experimental investigation of gratitude and subjective well-being in daily life. Journal of Personality and Social Psychology, 84, 377–389.
感謝とメンタルヘルス
米・ペンシルベニア大学の マーティン・セリグマン教授らは、幸福度を上げる効果があると言われている100以上の技法から6の介入法を選び、それらを「無作為割付プラシボ対照」と呼ばれる科学的な調査にかけました。
その結果、3つの介入が中長期的に幸福度を上げ、しかもうつの徴候を低減することが判明しました。その一つが「3つのよいこと」、つまり人生のポジティブな面に着目し、内面にある感謝の心を育む習慣でした。これは先に挙げたエモンズ教授による過去の研究結果とも一致しています。
参考文献:Seligman, M. E. P., Steen, T. A., Park, N., & Peterson, C. (2005). Positive psychology progress: Empirical validation of interventions. American Psychologist, 60, 410–421.
強みの活用とうつの低減
セリグマン教授らが調査した「3つの中長期的な効果があるポジティブ心理学介入法」のうち一つが「強みを新しい方法で活用する」ことです。
自分のもつ一番の強みを今までに使用したことのない目的に活用することで、幸福度が上がるだけでなく、うつの徴候が低減することがわかりました。しかもその効果は6ヶ月にも及ぶ、長期的なものでした。
参考文献:Seligman, M. E. P., Steen, T. A., Park, N., & Peterson, C. (2005). Positive psychology progress: Empirical validation of interventions. American Psychologist, 60, 410–421.
強みとしての徳性と病気からの回復
どの強みとしての徳性が、心身の病にポジティブな予防効果を与えるか。
この答えを探るために、「VIA分類法」の開発者であるピーターソン教授らは、調査を行いました。そこでわかったのが、「勇敢さ」「親切心」「ユーモア」の強みが高い人々は、体の不調があったとしても人生満足度が下がることが少なかったことです。
強みを見いだし、それを磨くことで心身の病に対しての予防的な役割を果たすことが考えられます。
参考文献:Peterson, C., Park, N., & Seligman, M. E. P. (2006). Greater strengths of character and recovery from illness. The Journal of Positive Psychology, 1(1), 17–26.
強みとメンタルヘルスの関係性
「希望」「熱意」「リーダーシップ」といった強みを持つ人は、不安やうつなどの精神的な問題に悩まされることが少ないことが米・ミシガン大学のパク博士とピーターソン教授の調査によりわかりました。
また「忍耐力」「誠実さ」「慎み深さ」「愛情」といった徳性をもつは、攻撃性の問題が低いこともわかっています。
この発見はメンタルヘルスだけでなく、学校教育やカウンセリングの領域でも活用できると考えられます。
参考文献:Park, N., & Peterson, C. (2008a). Positive psychology and character strengths: Application to strengths-based school counseling. Professional School Counseling, 12(2), 85-92.
ポジティブ心理療法
マーティン・セリグマン教授は、ラシッド・タヤブ博士と共同で開発した「ポジティブ心理療法」を、直接抑うつ症状をターゲットとする標準的な心理療法とは異なり、ポジティブ感情・関与度・意義を増す事で抑うつに介入する技法として提案します。
ある実験では、ポジティブ心理学におけるエクササイズを行った被験者は、少なくとも 6 カ月間は抑うつ症状を和らげたことがわかりました。同じような効果がより重度のうつ病患者にも1年間に及ぶ長期の調査でわかっています。
これらの研究は、ポジティブ感情、関与度、および意味づけをしっかりと増加させるエクササイズによって抑うつに対する治療は十分に補えることが示されました。
参考: Positive psychotherapy.
Seligman, Martin E. P.; Rashid, Tayyab; Parks, Acacia C.
American Psychologist, Vol 61(8), Nov 2006, 774-788. doi: 10.1037/0003-066X.61.8.774