幸福の歴史
「笑顔は幸福の象徴」は比較的新しい
ピーター N. スターンズ (ジョージ・メイソン大学 教授)
人は幸せを感じると、笑顔になり陽気に振る舞う。これは今でこそ当たり前の行為だと思われていますが、実はアメリカ文化の影響を強く受けた国に見られる最近の傾向である、とスターンズ教授は伝えます。
日本やアジアの国々でもそうだったように、西洋でも18世紀までは幸福感の表現方法としては慎み深い態度が好ましく思われていました。その理由はアジアでは儒教的であるのに対し西洋ではキリスト教の影響を受けているようで、「神は喜びや悦楽を享受することなく、いくぶん悲哀に満ちた振る舞いと禁欲に身を置く者に手を差し伸べる」と考えられていたからです。
では、幸福イコール笑顔がステレオタイプになったのはいつでしょうか。それは19世紀だといいます。そこには、死生観や労働観との兼ね合いがあり、とりわけアメリカでは1920年代以降、人々が幸福を主張する権利が確立され、メディアや広告、製品やサービスを通じて、幸福の表現方法がいまのようにステレオタイプ化されていったそうです。
例えば、誕生日を祝うときの「ハッピー・バースデー」。今でこそ欧米や日本だけでなく中国やアブダビなどの異文化でさえも中間所得階級では当たり前の言葉として使われていますが、グローバライズされたのは最近のことです。
幸福に重きを置く文化では、より幸福な人々を生みやすいのは事実ですが、同時に問題も起きかねません。幸福への期待度が高まれば高まるほど、幸せになれない人の失望やフラストレーションが高まり、人生の満足感が低くなる怖れがあるからです。また「死」などの幸福感を享受できにくい体験を受け入れることが難しくもなります。
そのプラスとマイナスの両面を考えながら、幸福に関する文化を受け入れ改善する必要があると思われます。
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