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【書評】
ポジティブ・コーチングの教科書

原題: Practicing Positive Psychology Coaching
ロバート・ビスワス=ディーナー(著) 高橋由紀子(訳)宇野カオリ(監訳)

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書評シリーズ10回目となる今回ご紹介するのは、以前取り上げた「ネガティブな感情が成功を呼ぶ」の著者の一人でもあるロバート・ビスワス=ディーナー博士が2010年に出版した『Practicing Positive Psychology Coaching』 の邦訳書です。博士は本書のことを、前著『Positive Psychology Coaching: Putting the science of happiness to work for your clients』(ポジティブ・サイコロジー・コーチング)[未訳]の続編であり、これらは2巻にわかれた1冊の本であると紹介しています。前著はポジティブ心理学の基礎知識を紹介するためのいわば理論編で、本書はその知識を土台に幅広い有用なツールを提供し実践的に広げるための応用・実践編です。

博士は、ポジティブ心理学者の研究者としての顔を持つ一方で、組織リーダーをはじめ幅広い知的プロフェッショナルを対象にコーチングを行なったり、コーチを対象にしたワークショップを世界中で行なったりと、彼自身が実務家でもあります。世界中のポジティブ心理学のコーチたちと接する中で、彼らが一様に「知識」よりも「今すぐクライアントに使えるツール」を欲していることを痛感した博士は、まさに彼らのニーズに応える形で本書の中で実践的なアドバイスやツールを多数紹介しています。まさに、ポジティブ・コーチングの実務家たちが手にとるべき実践版教科書と言えます。もちろん、コーチに限らず全てのポジティブ心理学実務家たちも本書から多くを学べるでしょう。

■ コーチングとポジティブ心理学の関係

コーチングの実践は、今やポジティブ心理学とは切っても切り離せない関係と言えます。読者の皆さんは既にご存知の通り、ポジティブ心理学は心理学の世界にほんの10数年前に起こった新奇な分野です。コーチング自体の歴史はもう少し長いものの、ポジティブ・コーチングと呼ばれるコーチングは、ポジティブ心理学の発展と共に急速に普及してきました。ポジティブ心理学の教育を受けた人の多くがコーチングのキャリアを選んでおり、博士は「コーチングは、ポジティブ心理学を応用する方法として自然な選択肢」だと述べています。

一方で、「ポジティブ心理学コーチ」と名乗る上での明確な基準は未だ存在しておらず、一般的なコーチングの知識と、ポジティブ心理学の理論、そのどちらにも十分に精通していないにもかかわらず、「自称ポジティブ心理学コーチ」と名乗る人が大勢いる現状への懸念も示しています。特にポジティブ心理学はあくまで科学であるゆえに、専門的であり動的で、変化することが常です。最新の正しい理論や知識を常にアップデートすることは、プロのコーチとして必須と言えますが、多くの「自称ポジティブ心理学コーチ」たちは一部の理論やツールのみを自己流に応用してしまっているのが現状です。ゆえに、ポジティブ・コーチングも、一般のコーチングと同様に、明確な基準を確立することが急務だと述べ、そのための具体的な提案(1:資格認定を受ける、2:ポジティブ心理学の最新情報を得る、などの6つの基準)を示しています。

■ 強みコーチとしての能力を伸ばすには?
 
ポジティブ・コーチングと一般のコーチングとの大きな違いの一つは、コーチがクライアントの「強み」に注目するかどうかです。一般的なコーチングでは、クライアントに個人的リソースと現在手にしている機会について尋ねるのが一般的ですが、ポジティブ心理学のコーチは生来の強みという最強のリソースをクライアントに気づかせ、活用させようとします。クライアントの強みを最大活用できる「強みコーチ」としての能力を伸ばすにあたり、コーチはまず2つの能力を増強する必要があると述べています。1つは、コーチ自身が強みのボキャブラリーを増やすこと、もう1つはクライアントの中に強みを見出して特定するスキルを磨くことです。

強みのボキャブラリーを増やすというのは、強みにラベリングをするスキルを向上させることです。強みの項目が15か20しか思い浮かばない人はクライアントの中にそれだけの強みしか見出せず、50や60の強みの項目が簡単に思い浮かぶようなら、微妙で多彩な強みを見出せる可能性が高まります。博士は自身の体験談をもとに、「強みコーチングというのは時に、クライアントと共に、強みの新しいボキャブラリーを増やしていく作業でもある」とも述べています。

2つ目の「クライアントの強みを特定する」にあたって、正式な強みアセスメントの活用はもちろん有効ですが、熟練コーチはクライアントのエネルギーの高まりを探すことで最善の資質を自然に突き止めることができると言います。また、抑揚が上がる、話し方が早くなる、背筋が伸びる、目が開かれたり眉が上がったりする、などの様子の変化も強みの特定に効果的だと言います。博士は、クライアントの強みに働きかけて伸ばそうとする上で最も大切なことは、その強みが「本物」であるかどうかをコーチが見きわめることだと述べ、本書の中で様々な事例を挙げながらその方法を紹介しています。

■ ポジティブ・アセスメント

ポジティブ心理学の実証研究に基づいて開発された数々のアセスメントの中から、コーチングに直接結びつくもので、比較的スコアの集計が簡単で、さらに統計学や調査法の知識がない人でも使いやすいもののみを選抜して、博士は本書の中で紹介しています(領域別満足尺度、ポジティブ経験・ネガティブ経験尺度、主観的幸福度尺度を含む合計11の尺度)。その上で、実際のコーチングにおいては「自分自身が面白いと思える尺度を使うことが大事」と述べています。

コーチングですぐに実践できるような新しいアイデアを一つでも得て欲しい、との博士の思いが形になり、本書にはコーチングの実践現場で今すぐに使えるアセスメントツールやアイデア、成功例や失敗例を含む体験談が豊富に盛り込まれています。(具体例の紹介は書評の中では省略しています)本書の最後に、博士は「読者には、この分野の輝かしい未来に期待すると同時に、ぜひ強力な新しいツールや知識を試すパイオニアとして、活躍を始めてもらいたい」との期待のメッセージを記し、本書を締めくくっています。


目次
第1章 ポジティブ・コーチングとは?
第2章 「強み」を活かして成長する
第3章 ポジティビティの力を利用する
第4章 目標と未来への希望を持つ
第5章 ポジティブな特性を診断する
第6章 ポジティブ・アセスメントとは?
第7章 人生の困難期を救うポジティブ・コーチング
第8章 ポジティブ・コーチングを続けるには?
    

2016年6月

神谷雪江(Masters of Applied Positive Psychology修了)

執筆者:神谷雪江(かみや ゆきえ)


米・ペンシルベニア大学大学院 応用ポジティブ心理学修士課程(MAPP)第一期生。修了後は、日本で人事コンサルティング会社に勤務し、ポジティブ心理学の、組織・人事への応用に従事。2009年より米・ボストンに移り、グローバル人材の採用や翻訳業に従事。 強み診断ツール「Realise2」の翻訳にも携わる。

神谷さんが執筆した『ペンシルベニア大学MAPP回想録』はこちらLinkIcon