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【書評】
幸せになれる脳をつくる —「ポジティブ」を取り込む4ステップの習慣

原題: Hardwiring Happiness – The new brain science of contentment, calm, and confidence
リック・ハンソン(著) 浅田仁子(監訳)

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■幸不幸をつかさどる「脳」と「心」71bI0buIlhL.jpg

今回取り上げるのは、神経心理学者リック・ハンソン博士の新刊「幸せになれる脳をつくる —「ポジティブ」を取り込む4ステップの習慣」です。

深い幸せに浸る瞬間も、地獄の苦しみのような瞬間も、その源泉をたどると脳という器官が大きく影響しているといいます。神経心理学の視点から人間の脳についてひもとき、どうすれば脳をもっと良い方向に変化させることができるか?というのが本書の重要なテーマの一つです。

■ ネガティビティ・バイアスの進化

長い人類の進化の過程で、わたしたちの脳は「ネガティビティ・バイアス」を進化させてきた、とハンソン博士は述べています。ポジティブなことよりもネガティブなことに対して敏感に反応する習慣が脳内に構築されているのです。これには、セリグマン博士をはじめとする多くのポジティブ心理学者たちも同意見でした。いつ降り掛かってくるか分からない様々な危険から身を守るためには「必然」だった進化の過程ともいえるでしょう。

しかしながら、現代は昔とは大きく環境が異なります。基本的な欲求が充分に満たされうる環境にありながらも、ポジティブな体験をさらっと流してネガティブなことばかりに意識をとらわれてしまっていては、いつまでも幸せになれないと博士は指摘しています。

■ 幸せになれる脳を再構築する

打開策として博士が提案するのが、「ポジティブ」を取り込むという新しい習慣です。脳は常に学習しながら変化する器官であることは数多くの研究から明らかだとして、意識的に「ポジティブ」な体験に注目したり、感謝したり、じっくり味わう、という体験を継続することで、幸せになれる脳を自ら再構築できるというのです。

また、ポジティブな体験は、わたしたちの内面の喜びや落ち着き、自尊心、更には内面的強さを育てることにつながるといいます。どんな小さなポジティブな体験も、一瞬の心地よさを提供して消え去ってしまう一過性のものとして終わらせるのではなく、神経構造にがっちりと組み込んで、永続的な財産に変えてしまおうというのです。

そのことについて、本書では理論編と実践編に分けて詳しく解説しています。実践編の中で、具体的な方法として博士が提案しているのが、良いものを取り込む4つのステップ「HEAL」(ヒール)です。

■ 良いものを取り込む4つのステップ:HEAL(ヒール)

良いものを取り込む、とは、具体的には「ポジティブな体験を潜在記憶内に慎重に内在化させること」だとして、以下の4つのステップについて詳しく紹介しています。

1. Have a positive experience(ポジティブなことを体験する)
2. Enrich it(それを強化する)
3. Absorb it(それを吸収する)
4. Link(ネガティブなものとポジティブなものをつなぐ。それによって、ポジティブな経験がネガティブな経験に取って代わるようにする)

頭文字をとって「HEAL」と名づけられたこの方法を継続的に実践することで、良いものを取り込む習慣が身に付き、ネガティビティ・バイアスに負けない幸せになれる脳を再構築できるといいます。

更には、良いものを取り込むスキル上達のためのヒントも提案しています。例えば、「ささやかなことの良さを味わう」、「ふさわしいときを見つける」、「自分のやりかたでする」、「楽しむ」、「自分の味方になる」などです。一見ささいなことのようですが、長期間継続することでもたらされる変化には目を見張るものがあるというのです。本書の中では実例も多数紹介されています。

良いものを取り込む過程の中では、様々な障害も付きものです。例えば、「気分が良くなると油断するのでは?」「良い気分になっても結局失望するのではないか?」といった不安や、「良い気分になろうとするのは、わがままでひとりよがりだ」という気持ちもそうでしょう。これらの障害への対処法にも触れています。

■ 内面的強さを育てる

幸せになるためには、内面的な強さを育てて心の庭を豊かにすることも必要だと述べています。脳と心は切っても切り離せない関係にあるからです。

内面的強さは「心のなかの宝箱に入っている宝石」だとして、三つの中心的な欲求(安全、満足、つながり)から体系化した二一の内面的強さを挙げています。「自分への思いやり」、「楽しみの感覚」、「大切にされている感覚」、「愛」などもそうです。これらの二一の宝石を磨き、自分の脳内に編み込むための簡単な実習も紹介しています。

■ 筆者所感

これまでも多くのポジティブ心理学者たちが幸せになるための方法を様々な観点から模索してきましたが、自分で自分の脳を作り変えてしまう、というのは神経心理学ならではの新しい次元で、個人的にもとても興味深い内容でした。また、博士の研究は、これまで紹介してきた数々のポジティブ心理学の研究を、神経科学という観点から全面的にサポートしているように思いました。

幸せの瞬間は、たいてい地味に、穏やかに訪れます。例えば、私自身が今、原稿を書きながらすする朝一番のコーヒーの味わい、どこからともなく聞こえてくる鳥のさえずり、隣で幸せそうに眠る子供の寝顔、そして原稿を書き上げた時の達成感など・・・。ちょっと意識を向けてみるだけで、この一瞬にも沢山の幸せが溢れている事に改めて気づかされます。

「足下を掘れ、そこに泉あり」
ドイツの哲学者ニーチェのこの言葉が私はとても好きです。この言葉のとおり、幸せとはどこか遠くに存在しているものではなく、実はとても身近に存在する幸せに気づいて満たされる自分でいられるかどうか、なのだという事を改めて教えてくれた一冊でした。

目次
まえがき
第1部 理論編 
 第1章 良いものを育てる 
     内面的強さ
     心という“庭”

  体験に依存する神経可塑性

  脳をより良い方向に変化させる

  特に役立つ体験


  自主的な神経可塑性

  TAKING IT IN 取り込もう
 第2章 ネガティブなものほど脳に残る


  進化しつづける脳

  悪いものは良いものより強い

  悪循環

  張り子のトラでも偏執的に恐れる

  マジックテープとテフロン加工

  無駄な努力

  条件を公平にする

  TAKING IT IN 取り込もう
 第3章 「緑」と「赤」
  三つのOS
  応答モード
  “我が家”はいい
  良いものに貼りつくマジックテープ
  反発モード
  選択肢
  応答バイアスを発達させる
  TAKING IT IN 取り込もう
第2部 実践編 
 第4章 「HEAL」で自分自身を癒す
  良いものを取り込む四つのステップ
  上達するには
  必要なものを取り込む
  良いものを取り込むのは良いことだ
  日々の宝石
  TAKING IT IN 取り込もう  
 第5章 ポジティブな体験に気づく
  楽しい感覚に気づく
  体験という“音楽”
  意識という“舞台”
  気に入ることと、手に入れたいと思うこと
  低い枝に実った果実
  TAKING IT IN 取り込もう 
 第6章 ポジティブな体験を創る
  現時点の状況
  最近の出来事
  継続中の状況
  個人的な資質
  過去
  未来
  良いものを他者と共有する
  悪いことのなかに良いことを見つける
  他者を気づかう
  他者の人生のなかに良いものを見る
  良い事実を想像する
  良い事実を作成する
  ポジティブな体験を直接引き起こす
  人生をチャンスとして見る
  TAKING IT IN 取り込もう 
 第7章 脳を構築する
  体験を強化する
  体験を吸収する
  安らぎと満足と愛
  TAKING IT IN 取り込もう
 第8章 花が雑草を押しのける
  ネガティブなものは高くつく
  ネガティブなものは脳内でどのように働くのか
  ネガティブなものを変化させるふたつの方法
  強力なツールとなりうるもの
  ステップ4に取り組む
  “解毒剤”となる体験
  ネガティブなものから始める
  ポジティブなものをネガティブな状況につなぐ
  ステップ4を実際にやってみよう
  TAKING IT IN 取り込もう
 第9章 活用法
  良い学びを定着させる
  自分にとって良いものを手に入れる
  ひと切れのパイ
  心の穴を埋める
  暗い気分を高揚させる
  トラウマから回復する
  人間関係を育てる
  他者を手助けする
  「HEAL」を使って子供を癒す
  邪魔をするものに対処する
  応答的なやりかたで課題を処理する
  TAKING IT IN 取り込もう
 第10章 二一の宝石
  本章の利用法
  安全
守られている感覚
自分のもつ強さ
くつろいだ感覚
邪魔されない聖域
脅威とリソースの見極め
今現在なんの問題もない
安らぎの感覚
ウェルビーイングの政治学・経済学
     満足
楽しみの感覚
感謝と嬉しさの感覚
ポジティブな感情
達成感と行為主体性
熱意
この瞬間に体験できることは豊富にある
充足感
     つながり
大切にされている感覚
価値があるという感覚
思いやりと親切
自分への思いやり
自分は良い人だという感覚
思いやりのあるアサーティブネス

     あとがき
  謝辞
  訳者あとがき

2015年6月

神谷雪江(Masters of Applied Positive Psychology修了)


執筆者:神谷雪江(かみや ゆきえ)


米・ペンシルベニア大学大学院 応用ポジティブ心理学修士課程(MAPP)第一期生。修了後は、日本で人事コンサルティング会社に勤務し、ポジティブ心理学の、組織・人事への応用に従事。2009年より米・ボストンに移り、グローバル人材の採用や翻訳業に従事。 強み診断ツール「Realise2」の翻訳にも携わる。

神谷さんが執筆した『ペンシルベニア大学MAPP回想録』はこちらLinkIcon