レジリエンス心理学のまとめ

心理学での代表的な研究を紹介

2022/10/13 初稿
2023/9/30 改訂

 
過去30年に渡り、レジリエンスに関する研究は心理学や社会学の分野で数多く行われてきました。この記事では、とくにポジティブ心理学の領域に注目し、代表的なレジリエンスに関する研究をまとめました。

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レジリエンス心理学とは?

 
レジリエンスは「回復力」や「復元力」を意味する言葉です。あるいはより具体的に「状況に対応する方法をコントロールしたり、課題や逆境から立ち直ったりする能力のこと」と言われています。
 
全米心理学会はレジリエンスについて以下のように定義しています。
 

『レジリエンスとは、逆境やトラウマ、悲劇的な事態や脅威、または著しいストレスに直面したときに適切に適応するプロセス』

 
また、他の心理学者は以下のようにレジリエンスを定義しています。
 
「逆境、葛藤、失敗、あるいは前向きな出来事、進歩、責任の増大から立ち直るための開発可能な能力」(Luthans, 2002a)
 
「逆境・挫折・不運からの立ち直り力」(Ledesma, 2014)

セリグマンのレジリエンスの3Pモデル

 
ポジティブ心理学のレジリエンスの枠組みとして最も有名なのが、セリグマンの3Pモデルです。

この3つのP(personalization、pervasiveness、permanence)は、逆境に対して私たちが抱きがちな3つの感情的な反応を指しています。この3つの反応に対処することで、私たちはレジリエンスを高め、成長し、適応力を高め、困難にうまく対処できるようになるのです。

 

個人化(Personalization)

問題や失敗を内面化することとして最もよく表現される認知の歪みです。悪いことが起きたときに自分の責任を問うと、不必要に多くの責任を自分に負わせ、立ち直るのが難しくなります。
 

汎化性(Pervasiveness)

ネガティブな状況が人生のさまざまな領域に広がっていると思い込むことを示します。例えば、あるスポーツで試合に負けたことで、他のこともすべてうまくいかないと悲観的であると思い込んでしまうことです。この思い込みに対処するには、人生のすべての領域に影響を与えるわけではないことを認めることが役立ちます。その結果、より良い人生に向かって前進することができます。
 

永続性(Permanence)

悪い経験や出来事は、一過性のものではなく、これからもずっと続くと信じていることを指します。この永続性の思い込みが心の内面にあると、状況を改善するための努力をすることができず、今の状態からは二度と回復できないかのように感じてしまいます。
 

柔軟な捉え方が重要

これらの3つのPは、私たちの思考や思い込み、信念がどのように私たちの経験に影響を与えるかを理解するのに役立ちます。
 
レジリエンスを発揮し、前向きに適応するために状況をより柔軟に認識し捉えるスキルを身につけることで、私たちはより回復力が増し、人生の困難から立ち直ることを学び始めることができるのです。


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人格の強みとレジリエンス

 
ポジティブ心理学では、私たちの強みは24種類に分類され、計測可能で、強み診断テストなどを活用して強みを見出し、使うことで、ウェルビーイングやエンゲージメント、そしてレジリエンスが高まることがわかっています。
 
例えば人格の強みが、レジリエンスと繁栄(幸福度)に直接的な影響を与えることや、人格の強みがストレス耐性と高く相関することが研究で示されています。
 
さらには、「熱意」「勇気」「公平性」「自己規律」の強みは、レジリエンスに最も有意に関係することも確かめられました。
 
別の研究では、「感謝」「優しさ」「希望」「勇気」の強みは、人生の逆境に対する保護因子として作用し、前向きに適応し、身体的・精神的な病気などの困難に対処するのを助けることが示されています。
 
また、レジリエンス思考に欠かせない、困難や挑戦に直面したときの前向きな適応に関しては、「希望」「勇気」「熱意」の強みが広範な関係を持つことを発見しました。
 
ただ、これらの研究からは、因果関係は明らかにされませんでした。言い換えれば、レジリエンスが強みに影響を与えるのか、またはその逆なのかはわかっていません。


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レジリエンスとウェルビーイング


レジリエンスとポジティブ心理学は密接に関連していると考えられています。どちらも促進的な要因がどのように作用するかに関心があり、有益な構成要素がどのように私たちのウェルビーイング(幸福度)を促進するかに関心を持っています。

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レジリエンスとポジティブな感情

レジリエンスは、楽観性、熱意、好奇心、エネルギー、経験に対する開放性など、さまざまなポジティブな状態と関連しています (Tugade & Fredrickson, 2004)。これらのポジティブな情動状態は、職場にとって非常に大きな価値があります。ポジティブな感情は、私たちの思考と行動において、より探索的で適応的になるのを助けるからです。結果として、従業員の活動を拡大し、従業員の目をさまざまな可能性に向けさせ、職場の行動に対してより創造的な解決策を生み出す可能性を高めるのです。
 
また、ポジティブな感情を経験した人は、問題焦点型の対処を行う可能性が高く、これは職場環境において大きな利点となります。さらに、ポジティブな感情を持つ人は、一見何でもないような出来事や経験もポジティブに解釈する傾向があります。このように、ポジティブな感情は、職場においてポジティブさを育みます。
 

ストレスの緩衝材

またポジティブ感情は、ストレス体験に直面した時に、私たちの精神面において緩衝材(バッファ)の機能を果たし、ストレス耐性を与えうることがわかっています(Tugade & Fredrickson, 2004)。

これらの結果は、ポジティブな感情がリソースの成長を促進するという他の証拠や、心理的レジリエンスと身体の健康、心理的ウェルビーイング、ポジティブな感情とを関連付ける知見と一致しています。

ポジティブ組織行動とレジリエンス

 
ポジティブ組織行動とは、Luthansらによって「今日の職場におけるパフォーマンス向上のために測定、開発、効果的な管理が可能な、ポジティブ志向の人的資源の強みと心理的能力の研究と応用」と定義されています。
 
ポジティブ組織行動の頻度が高い従業員で構成される組織は、予想外の問題や不測の事態に対して効果的に反応し、組織としてのレジリエンス(回復力)を発揮することが確認されています。

心理資本(PsyCap)とレジリエンス

 
レジリエンスはFred Luthansが提唱する「心理資本」という人的資本を構成する一要素として重視されています。
 

心理資本とは何か?

心理資本(Psychological Capital、略してPsyCap)は、「個人のポジティブな心理的発達状態」と定義され、Luthansによって提唱されました。
 
Luthansは、従業員の心理資本の構築に投資することが競争優位につながると考えました。現在では経済産業省の研究会での「人材版伊藤レポート」でも提唱されているように、「人的資本投資」を重要視する企業が増えていますが、Luthansが心理資本を提唱した2000年前半当時はこの考え方は画期的でした。

Luthansは、従業員は「明示的知識」と「暗黙的知識」の2種類の知識を持っていると主張しました。明示的知識には、教育や経験に由来するスキル、能力、コンピテンシーが含まれます。一方、暗黙知は、組織への社会化を通じて時間をかけて構築されるもので、独自で、累積的で、相互に関連し合うものです。

 
この考え方から、Luthansは、教育的な開発よりも、心理的な開発に焦点を当てる必要があると考えました。暗黙的知識を基盤とした人的資源は物理的、構造的、財務的資源よりも競合他社が真似できないものであり、長期的な競争優位性を提供すると主張しました。
 

心理資本の効果

多くの研究により、特にサービス産業において、心理資本の高さが従業員のパフォーマンスや職務満足度と正の相関があることを確認しています。さらに、仕事と人生の満足度の間に強い関係がありました。

高いレベルの心理資本は、ウェルビーイング、BMIやコレステロール値の低下などの健康状態、人間関係に対する満足度にポジティブな影響を与えることが分かりました。

 

心理資本の4因子

心理資本は4つの心理的要素によって構成されます。その英語の頭文字をとって「HERO」と名付けられています。
 

  • Hope(希望)
  • Efficacy(自己効力感)
  • Resilience(レジリエンス)
  • Optimism(楽観性)

 
神経可塑性の分野における最近の知見によって、私たちの脳は可塑的であるため、これらの心理資本を発達させ、強化することができるとされます。
 

心理資本の評価尺度

心理資本を測定するために、いくつかの尺度が開発されています。Luthansら(2007)は「Psychological Capital Questionnaire 24 (PCQ-24)」を開発しました。また、人生のあらゆる領域でより一般的に適用するために、Lorenzら(2016)は12項目の自己報告尺度である「Compound PsyCap Scale(CPC-12)」を開発しています。

まとめ

 
心理学においては、レジリエンスを楽観主義や希望と並んで、数多くの対処的な肯定的心理的資源の 1 つとして捉えています。ポジティブ心理学との相性は高く、ポジティブ心理学の研究が盛んになった2000年代以降に、レジリエンスとポジティブ心理学に関する研究が増えてきました。
 
この記事では、それらの研究から代表的な論文を参考にして、ポジティブ心理学の研究領域である人格の強みやポジティブ感情、ウェルビーイングやポジティブ組織行動とレジリエンスとの関連についてまとめました。
 
今後も、エビデンスにより裏打ちされたレジリエンス基礎研究が、研修やコーチングなどの応用を通して活用されることを願っています。

 
久世 浩司(ポジティブサイコロジースクール代表)

参考文献

  • Ledesma, J. (2014). Conceptual frameworks and research models on resilience in leadership. Sage Open, 4(3), 1–8.
  • Seligman, M. (1990). Learned optimism. Pocket Books.
  • Tugade, M. M., & Fredrickson, B. L. (2004). Resilient individuals use positive emotions to bounce back from negative emotional experiences. Journal of Personality and Social Psychology, 86, 320 – 333.
  • Niemiec, R. (2019). Six functions of character strengths for thriving at times of adversity and opportunity: A theoretical perspective. Applied Research in Quality of Life.
  • de la Fuente, J., Urien, B., Luis, E. O., González-Torres, M. C., Artuch-Garde, R., & Balaguer, A. (2022). The proactive-reactive resilience as a mediational variable between the character strength and the flourishing in undergraduate students. Frontiers in Psychology, 13, 856558.
  • Fletcher, D., & Sarkar, M. (2013). Psychological resilience. European Psychologist, 18, 12–23.
  • Martínez-Martí, M. L., & Ruch, W. (2017). Character strengths predict resilience over and above positive affect, self-efficacy, optimism, social support, self-esteem, and life satisfaction. The Journal of Positive Psychology, 12(2), 110–119.
  • Cohn, M. A., Fredrickson, B. L., Brown, S. L., Mikels, J. A., & Conway, A. M. (2009). Happiness unpacked: Positive emotions increase life satisfaction by building resilience. Emotion, 9(3), 361–368.
  • Moore, C(2019) Resilience Theory: A Summary of the Research
  • Luthans, F. (2002a). The need for and meaning of positive organizational behavior. Journal of Organizational Behavior, 23, 695–706.
  • Luthans, F., Avolio, B. J., Avey, J. B., & Norman, S. M. (2007). Positive Psychological capital: measurement and relationsihp with performance and satisfaction. Personnel Psychology, 60, 541-572.
  • Luthans, F., & Youssef-Morgan, C. M. (2017). Psychological Capital: An Evidence-Based Positive Approach. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 4, 339-366.
  • Lorenz, T., Beer, C., Pütz, J., & Heinitz, K. (2016). Measuring Psychological Capital: Construction and Validation of the Compound PsyCap Scale. Plos One, 11(4).

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執筆者の紹介

久世浩司 

ポジティブサイコロジースクール代表
応用ポジティブ心理学準修士(GDAPP)
認定レジリエンス マスタートレーナー
 
当スクール代表の久世浩司はポジティブ心理学レジリエンスを専門にしています。慶應義塾大学卒業後、P&Gに入社し、その後は社会人向けのスクールを設立。レジリエンス研修認知向上と講師の育成に取り組んでいます。NHK「クローズアップ現代」や関西テレビ『スーパーニュースアンカー』などでも取り上げられ、著書による発行部数は20万部以上。研修・講演会の登壇は上場企業から自治体・病院まで100社以上の実績があります。
 

主な著書
『「レジリエンス」の鍛え方』
『なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?』
『なぜ、一流になる人は「根拠なき自信」を持っているのか?』
『リーダーのための「レジリエンス」入門』
『なぜ、一流の人は不安でも強気でいられるのか?』
『親子で育てる折れない心』
『仕事で成長する人は、なぜ不安を転機に変えられるのか?』
『マンガでやさしくわかるレジリエンス』
『図解 なぜ超一流の人は打たれ強いのか?』
『成功する人だけがもつ「一流のレジリエンス」』
『眠れる才能を引き出す技術』
『一流の人なら身につけているメンタルの磨き方』
『「チーム」で働く人の教科書』



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