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【書評】
なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?
〜実践版レジリエンス・トレーニング〜

久世 浩司(著)

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■実践版「レジリエンス・トレーニング」書影 Amazon.jpg

今回ご紹介する本は、「レジリエンス」を専門に日本の第一線で活躍する、ポジティブサイコロジースクール代表・久世氏の新刊です。
前著『「レジリエンス」の鍛え方』『親子で育てる折れない心』に続き、3冊目となる今回の本では、著者自身が実際にコーチングで使っている「レジリエンス・トレーニング」のノウハウを惜しみなく紹介しています。専門的なトレーニングを受けたくても中々受けられない人や、仕事を通した幸せをもっと追求したいという人たちには是非とも読んでいただきたい一冊です。

■なぜ、あの人はハードワークでもイキイキと仕事を楽しんでいるのか?

ハードワーク(ロングワークではなく)の一般的なイメージとしては、やはり、つらい、疲れる、などのネガティブなイメージが多いのではないでしょうか。

一方で、他の人の2、3倍くらいの仕事量をこなしながらも、仕事に追われて疲弊するというよりは、目の前の仕事に没頭することを楽しみながらイキイキとしている人たちもいます。
「その人たちには、ある共通の習慣がある」と久世氏は述べています。そして、そのための重要な鍵となるのが「レジリエンス」です。

私見で恐縮ですが、私自身のポジティブサイコロジーのバックグラウンドから考えてみると、その人たちは環境に応じて自分の「強み」をうまく活かせている人たちに違いない、というのが率直な感想でした。イギリスのCAPP社で開発された「Realise2」 という強み発見開発ツールの翻訳に携わった経験からも言える事は、「強み」は使えば使うほどにエネルギーが湧き、更には高い成果にもつながる、という事が様々な研究で分かっているからです。この理論に基づけば、ハードワークを楽しんでいる人たちがいるのも納得なのです。
(※「Realise2」で言う「強み」とは、使えば使うほど活力が湧き、高い成果が出せるものです。成果は出てもエネルギーが消耗されるのであれは、それは「強み」ではなく「習得した特性」に分類されます。うまくできるからと言って「強み」と勘違いしないよう注意が必要です。「弱み」は使うほどにエネルギーを消耗し、高い成果にもつながりません。)

しかし、「強み」だけで全てにうまく対応するのは現実的ではないでしょう。「強み」を最大限に活かせる職種や職場を選んだとしても、嫌いな仕事や苦手な仕事も当然ながらあります。苦手な上司に悩まされる事もあれば、予期せぬ環境の変化(例えば、希望しない部署への異動や海外転勤など)もあるでしょう。

これらの現実的なあらゆる課題を全てひっくるめて、どんな変化や危機にも対応しながらも、ハードワークを「楽しむ」ためには、強い精神力が必要となります。
著者は、このようにハードワークを楽しんでいる人たち に共通する行動パターンや習慣を「レジリエンス」という視点から解明しています。


■「レジリエンス」とは何か?


「レジリエンス」という言葉を聞いた事があるでしょうか?

アメリカでは一般的な形容詞として使われているものの、私自身はペンシルバニア大学でポジティブ心理学を学ぶまでは正直あまり馴染みのない言葉でした。また、私の在籍当時(2005−2006年)のMAPP草創期は、そこまで「レジリエンス」の研究が注目を浴びてはいなかったように思います。(当時はもっぱら「特徴的な強み」や「幸福とは」といった根本的なテーマや、それらをコーチングや人材開発にいかに応用するか、といった事が主流だったように思います。)それからほんの数年の間に、「レジリエンス」なしではポジティブ心理学は語れないといっても過言ではないくらい、「レジリエンス」は重要な研究テーマの一つになりました。更には、ペン・レジリエンシー・プログラム(PRP)やアーミー・ストロングなど、「レジリエンス」研究の応用事例が世界的に注目を集め、 最近では日本でも一般的に知られる言葉になってきているような気がします。

全米心理学会は「レジリエンス」について以下のように定義しています。
「レジリエンスとは、逆境や困難、強いストレスに直面したときに、適応する精神力と心理的プロセスである」

更に、著者は、レジリエンスの高い人の特徴として、以下の3つを挙げています。
1.回復力:逆境や困難に直面しても、すぐに元の状態に戻ることができる力
2.緩衝力:ストレスや予想外のショックなどの外的な圧力に対しても耐性がある(いわゆる打たれ強さ)
3.適応力:予期せぬ変化や危機に動揺して抵抗するのではなく、新たな現実を受け入れて合理的に対応することができる力

これらの力は大なり小なり誰にでも元々備わっているもので、鍛えることで更に強化できると述べています。

■ストレス体験こそが「レジリエンス」を鍛える


負荷トレーニングが身体の筋肉を鍛えるように、職場におけるストレス体験は心理的筋肉を鍛えるという意味で、ストレス体験こそが「レジリエンス・マッスル」を鍛える絶好の機会だと著者は述べています。

どんなストレス体験にも心が折れることなく、その経験をうまく活用して「レジリエンス・マッスル」を鍛えるためのポイントとして、久世氏は以下の7つの技術と3つの習慣を紹介しています。

7つの技術

ネガティブ感情の悪循環から脱出する

役に立たない「思い込み」を手なずける

「やればできる」と信じる「自己効力感」を身につける

自分の「強み」を活かす

心の支えとなる「サポーター」をつくる

「感謝」のポジティブ感情を高める

痛い体験から意味を学ぶ
3つの習慣

ネガティブ連鎖をその日のうちに断ち切る習慣

ストレス体験のたびにレジリエンス・マッスルを鍛える習慣

ときおり立ち止まり、振り返りの時間をもつ習慣

本書では、仕事における代表的なストレス体験の事例と共に、これらの技術と習慣の活用方について解説されています。皆さんが今、仕事で抱えているストレスへの対応の仕方に関するヒントもきっと得られる事と思います。


■「レジリエンス」は自分を守る最強の武器


生きていく上での困難や予期せぬ不運は避けられないものですが、どんなストレス体験をも自分を強化させるための触媒に変えてしまえる強い自分がいれば、全ての困難は「成長の機会」に変身してしまいます。そうなればもはや、怖いものなし、です。仕事や人生におけるどんな障害も、波乗りのように楽しめてしまうのかもしれません。
困難を自分を苦しめる邪魔者で終わらせてしまうか、自分を進化させる踏み台にするか、その決定権は、困難そのものではなく、自分自身にあるという事に改めて気づかされます。

本書を通して「レジリエンス」について学ぶと、こんなにも無敵で最強な武器はないのでは、と思います。しかもその武器は誰でも持っているもので、いくらでも強化できるものです。何と心強いのでしょうか。

その意味でも、「レジリエンス」は、ビジネスリーダーに限らず老若男女誰もが習得すべき「幸せな人生を生きるために不可欠な要素」と言えるでしょう。アメリカでは既にビジネス界から学校教育まで幅広く取り入れられている「レジリエンス・トレーニング」。日本でも今後ますます注目され、導入されていく事が楽しみでもあります。

「レジリエンスとは、逆境や困難、強いストレスに直面したときに、適応する精神力と心理的プロセスである」との定義を改めて読み返しながら、進化論で知られるダーウィンの思想を後世の人が表現したこの言葉を思い出します。

「生き残れるものは最も強い種ではない。最も賢い種でもない。変化に適応できる種こそが生き残るのだ。」


目次

はじめに

ハードに仕事をしても心が疲弊しない「新しい働き方」とは?

ダボス会議でも話題になった「レジリエンス」とは?

レジリエンスの3つの特徴

ハードワークなのに元気な人の3つの習慣

序章 レジリエンス・トレーニングとは?  

「レジリエンス・トレーニング」とは?

ステージ1:精神的な落ち込みを「底打ち」する

ステージ2:スムーズな「立ち直り」を図る

ステージ3:感情にラベリングする

レジリエンスを鍛える7つの技術1:ネガティブ感情の悪循環から脱出する

レジリエンスを鍛える7つの技術2:役に立たない「思い込み」を手なずける

レジリエンスを鍛える7つの技術3:「やればできる」と信じる「自己効力感」を身につける

レジリエンスを鍛える7つの技術4:自分の「強み」を活かす

レジリエンスを鍛える7つの技術5:心の支えとなる「サポーター」をつくる

レジリエンスを鍛える7つの技術6:「感謝」のポジティブ感情を高める

レジリエンスを鍛える7つの技術7:痛い体験から意味を学ぶ

ストレス体験のたびにレジリエンスを強くする

第1章 ネガティブ連鎖を断ち切る習慣

ハードに働くまじめでがんばりやな社員

事例1:ストレスを飲酒で紛らわせる広告代理店勤務の男性

事例2:「アンガーマネジメント」する怒りっぽい社長

事例3:「ストレスの宵越し」をしない習慣

事例4:書くことでストレスを解消するコールセンターの女性

事例5:スボーツ少年団の監督で「燃え尽き症候群」を予防

第2章 「上司との人間関係ストレス」とのつきあい方

職場における3大ストレス

仕事の満足感は上司との関係が9割

「ホットボタン」を押す上司、「クールボタン」を押す上司

事例6:上司に苛立ちを感じる女性社員

事例7:一緒にいると、なぜか元気を奪われる上司

事例8:もし、あなたのパートナーが「感情バンパイア」だったら

第3章  「思いやりのない職場」での過ごし方

事例9:人が辞めていく「幽霊船」組織

事例10:転職後の苦労

事例11:私が出会った「レジリエンス・リーダー」

第4章 キャリアの節目での「逆境力」

レジリエンスが試される「キャリアの節目」

事例12:まじめな新入社員の入社後の試練

入社後100日以内に高めたい仕事への「効力感」

「小さな成功体験」と「代理体験」を組み合わせる

事例13:転職先でつまずきかけた問題

事例14:女性の育児休業後の仕事復帰における自信

事例15:不本意な転職にどう対処するか?

事例16:海外転勤で部下がいなくなる逆境

第5章 立ち止まって振り返る習慣

ハードに働き、立ち止まって内省する

変化が多い時代だからこそ、振り返るリーダーたち

海外エグゼクティブが好む「リトリート」の習慣

ビル・ゲイツの「ポジティブなひきこもり」

事例17:週末に一人で静かな時間をもつ習慣

事例18:社長の急死でショックを受ける

事例19:なかなか開花しない新規事業に携わる難しさ

おわりに

2015年3月
神谷雪江(Masters of Applied Positive Psychology修了)


執筆者:神谷雪江(かみや ゆきえ)


米・ペンシルベニア大学大学院 応用ポジティブ心理学修士課程(MAPP)第一期生。修了後は、日本で人事コンサルティング会社に勤務し、ポジティブ心理学の、組織・人事への応用に従事。2009年より米・ボストンに移り、グローバル人材の採用や翻訳業に従事。 強み診断ツール「Realise2」の翻訳にも携わる。