マーティン・セリグマンとは?
ポジティブ心理学の創始者とその人気の本の解説
マーティン・セリグマン教授とは?
マーティン・セリグマン教授は、現在は「ポジティブ心理学の父または創始者」として広く知られていますが、心理学分野における主要な研究者の一人です。
1942年8月12日にニューヨークで生まれたセリグマンは、1964年にプリンストン大学で哲学を学んだ後、1967年にペンシルバニア大学で心理学の博士号を取得しました。
その後、ペンシルバニア大学の臨床研修プログラムのディレクターを14年間務めました。その時期の1960年代から70年代にかけてのセリグマンの研究は、「学習性無力感」というよく知られた心理学の理論の基礎を築きました。
これだけでも大きな貢献ではありますが、セリグマンは学習性無力感の研究で著名になった後も、レジリエンスのプログラム開発、学習性楽観主義の研究と、幅広い分野で活躍を継続します。
そして1988年に全米心理学会の会長に選出されたときに、セリグマンが提唱したのが「ポジティブ心理学」でした。
この記事では、マーティン・セリグマン教授がいかにポジティブ心理学を創始するに至り、その後、この分野を世界的に広めることができたのかについてまとめました。
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学習性無力感とは?
学習性無力感とは、不快な刺激を受け入れて耐え、避けられる場合でも避けようとしないことを学習する心理状態を表します。
この理論は、人間や動物がどのようにして無力になることを学習し、自分に起こることをコントロールできなくなったと感じるようになるのかを説明しています。
この無力感は、動物が逃げられないような嫌悪的な刺激を繰り返し与えられると起きます。動物が、実際には自分自身を助ける力を持っているときでさえ、自分が置かれている状況の結果をコントロールできないと考えるように条件付けられるというものです。そして、この理論は、自分は状況を変えることができないと思っている人や、無力感を感じるような機会を逃してしまう人にも適用することができるとセリグマン教授は考えました。
このような人は、うつ病などの精神疾患を発症しやすい可能性があります。
実際、セリグマンは、この現象をうつ病と結びつけ、うつ病に苦しむ多くの人々が同様に無力感を感じていることに注目しました。このテーマに関する彼の研究は、うつ病の症状に対する多くの治療法や、うつ病を予防するための戦略を裏付けるインスピレーション、アイデア、証拠を提供しました。
学習性無力感の発見は、心理学者がうつ病の基礎を理解するのに役立つ、他の多くの関連研究につながったのです。
レジリエンスの研究
セリグマン教授は、学習性無力感に関する知識を利用して、軍隊と協力して兵士の心理的健康を増進し、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ兵士の割合を減少させることに成功しました。
その後、ペン・レジリエンス・プログラム(PRP)として発展し、米国陸軍の100万人以上の兵士を戦場でのストレスから再起し心身の健康を守るレジリエンス研修として導入されることになります。
上記のようにセリグマン教授の研究キャリアの大半は無力感や抑うつの研究に費やされてきました。心理状態をマイナスからゼロに戻すための治癒・治療の研究を極めた後にたどり着いたのが、心理状態をゼロからプラスに向上するポジティブ心理学だったのです。
セリグマン教授のキャリアの集大成と言えるポジティブ心理学に行き着く前に行った研究が「オプティミスト(楽観主義)」の研究でした。
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学習性楽観主義
セリグマンは、学習性悲観主義の理論を学習性楽観主義の考えに発展させます。「悲観主義や無力感も環境・状況により後天的に学習するのであれば、楽観主義や希望も学ぶことはできるのではないか」と創造的な仮説を立てたのです。
1991年の著書「オプティミストはなぜ成功するか」には、このように書かれています。
「悲観主義者の特徴は、悪い出来事は長く続き、自分のやることすべてを台無しにし、自分自身のせいだと考える傾向があることです。同じようにこの世の厳しい試練に直面している楽観主義者は、不幸について逆の考え方をする。彼らは、敗北は一時的な挫折や試練にすぎず、その原因はこの一件に限られていると考える傾向があるのです。」
全米心理学会会長の就任とポジティブ心理学の提唱
1998年には、全米心理学会の会長に就任することが決まりました。その就任演説で宣言された主要な活動のひとつが、科学的研究の分野としてポジティブ心理学を発展することだったのです。
ポジティブ心理学とは、「人生を最も生きる価値あるものにするのは何かに関しての科学的な研究である」と説明されています。その研究範囲は幅広く、まるで大きな傘のようにさまざまな領域にポジティブ心理学の研究は拡大しています。その一領域がメンタルヘルス分野であり、レジリエンスを高める方法としても応用されています。
この新しい分野の基礎となる論文、ポジティブ心理学は、セリグマンとフローの「創始者」であるミハイ・チクセントミハイによって2000年に発表されました。
2000年以降、セリグマンの「人生におけるポジティブなものにもっと目を向けよう」という呼びかけに、世界中の何千人もの研究者が応え、ポジティブな現象に関する何万もの研究を誘発し、コーチング、教育、人間関係、職場、その他あらゆる生活領域へのポジティブ心理学の応用のための基盤を確立してきました。
セリグマン教授は、ペンシルバニア大学にポジティブ心理学センターを設立し、ポジティブ心理学、レジリエンス、グリットに関する研究、トレーニング、教育、普及を使命としています。
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VIA強みの研究
ポジティブ心理学の創始後の最大の貢献の一つとして「人格の強みと美徳の研究」があります。セリグマン教授は、盟友のクリストファー・ピーターソン博士と共同で、「何が悪いか」ではなく「何がうまくいくか」に焦点を当てた「人格の強さと美徳」という分類マニュアルに取り組みました。
精神科医は、DSM(精神障害の分類統計マニュアル)を患者の診断に使用しています。DSMが「狂気」を研究するのに対し、人格の強みと美徳の分類は「正気」に注目したマニュアルだと言えます。
この研究は、VIA強みの研究へと帰結します。セリグマンらの研究を基に開発された「VIA強み診断」は、無料で公開され、200万人を超える人々に活用されています。
現在、セリグマン教授はペンシルバニア大学で心理学のゼラーバッハ教授とポジティブ心理学センターの所長を務めています。
定番の本から読むことをオススメ
セリグマン教授は、20冊ほどの書籍と250以上の研究論文を執筆し、多くの本はベストセラーとなり、主要な論文は多数の研究者に引用されています。
セリグマン教授の本は、人の心に興味を持つ方だけでなく、生き方に悩む人に向けた自己啓発本としても読まれています。セリグマン教授の思想や人生哲学を知るためには、定番本と言える3冊に目を通すことをオススメします。
1)オプティミストはなぜ成功するか
世界中でベストセラーになり、マーティン・セリグマン教授の名を一般にも知らしめた「Learned Optimism」の翻訳書です。初版から20年以上経っているため、古典の域に近づこうとしている本ですが、以前は講談社から発刊されていた文庫は絶版となり、現在はハードカバーとして別の出版社から改訂版として出ています。学習性楽観主義という、新しい分野についての研究事例が豊富に語られた、読んで楽しい一般書です。
私が本書をおもしろいと思う理由は3つあります...
2)世界でひとつだけの幸せ
〜ポジティブ心理学が教えてくれる満ち足りた人生〜
マーティン・セリグマン(著)
幸福度の研究から楽観性、フロー理論と充実感、強みとしての徳性、そして仕事における満足感と幸せな子供を育てる方法、生きる意味など、多岐に渡ってポジティブ心理学的な研究と考えが記されています。
ポジティブ心理学の挑戦
マーティン・セリグマン(著)
前著「世界でひとつだけの幸せ」以降10年間でのポジティブ心理学の進歩には目を見張るものがあります。最先端の研究と応用から知られざるポジティブ心理学の歴史まで、ポジティブ心理学の全貌が明らかにされた必読書であると思います。
セリグマンのポジティブ心理学
TEDトークの紹介
セリグマン この講演の中で、セリグマン教授は「心理学は人の短所と同じように強みにも関心を向けるべきである」と語ります。そして「通常の人々の人生をより充実させること」にポジティブ心理学の研究は貢献出来るとしました。
講演の後半には「幸せな人生を送るための3つの生き方」が語られます。その思想は、後にウェルビーイングの5つの構成要素として「PERMA理論」に発展しますが、初期のポジティブ心理学の考え方を非常にわかりやすく教えてくれます。