ポジティブ心理学とは? ウェルビーイングの研究をわかりやすく解説
ポジティブ心理学とは何か?
「ポジティブ心理学」は、日本国内でも注目されているウェルビーイングや強みに関する研究・応用分野です。
関連書籍が多数刊行され、TV番組も放映され、ドキュメンタリー映画も作られています。ブータン王国の「GNH政策」など、国家の幸福度政策も注目され、「幸福度ランキング」も多数発表されています。
マーティン・セリグマン教授は、ポジティブ心理学の創始者の一人です。彼は、ポジティブ心理学を「個人・コミュニティの要素を発見し促進することを目指した、人の最適機能に関する科学的研究」と定義しています。
従来の心理学が「マイナスからゼロに回復すること」を目指しているとすれば、ポジティブ心理学の目指すところは「ゼロ近辺の健常な心理状態をプラスに高めること」です。
この記事ではポジティブ心理学について、創始者のマーティン・セリグマン教授と最近注目を集めるウェルビーイングとの関連性について、わかりやすく解説します。
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マーティン・セリグマン教授とポジティブ心理学
20世紀末、マーティン・セリグマン教授が全米心理学会の会長に就任し、所信表明演説を通じてポジティブ心理学が生まれました。翌年、「American Psychologist」の論文集に「ポジティブ心理学特集」が組まれ、注目を集めました。
2000年に執筆されたポジティブ心理学の創始者と言われるセリグマン教授とチクセントミハイ博士による初期の論文は、非常に多く引用されている心理学の文献の一つとなっています。2002年には、セリグマン教授の書籍「世界で一つだけの幸せ」が全米ベストセラーになりました。2005年にはTIME誌やハーバード・ビジネス・レビュー誌で特集記事が組まれました。
幸福度という世界の人々の関心の高いテーマを扱った新しい心理学の流れとして、心理学の関係者のみならず、一般の人も含め幅広い層に注目を集めました。新しい「ポジティブ心理学」という分野を切り拓いたセリグマン教授の”プロデューサー”的な才能が発揮されたと言えます。
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タル・ベン・シャハーの「Happier」
さらにはタル・ベン・シャハー博士の著書「Happier」(邦訳・同題)が話題になり、世界的なベストセラーとなりました。「ハーバード大学で最も人気の授業」というキャッチフレーズが人気の秘訣となりました。
また、シャハー博士の同僚であるショーン・エイカーは、ハーバード大学で講師として活躍していましたが、「幸福優位の7つの法則」という本を出版し、ビジネス書としてのベストセラーにもなりました。このことがポジティブ心理学がビジネス界でも注目されるきっかけになったのです。
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ペンシルベニア大学大学院のMAPP
高等教育の分野においては、2004年にセリグマン教授がペンシルベニア大学大学院に世界初の「応用ポジティブ心理学修士課程(MAPP)」を開講しました。さらには、イローナ・ボニウェル博士がセリグマン教授の支援を受けて英・イースト・ロンドン大学大学院で欧州初のMAPPを開講。チクセントミハイ博士もポジティブ心理学世界初の博士課程をクレアモント大学大学院で開講。今では世界各国の大学・大学院でポジティブ心理学の学位が取得できるように拡大しています。
「幸福を研究する科学」として知られていたポジティブ心理学ですが、「ハピネス研究者」と呼ばれることを嫌う心理学者もいたり、「ポジティブ心理学=黄色のスマイルマーク」は誤解を生むシンボルとして嫌われたこともあります。
現在は、「ハピネス」ではなく「ウェルビーイング」という言葉が主流となり、セリグマン教授の近著では、ウェルビーイングに関する最新理論として「PERMA理論」が解説されています。
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ポジティブ心理学を一言で解説すると?
ポジティブ心理学を一言で説明すると、幸福学を中心に発展した、個人とコミュニティの最適な機能に関する科学的研究であるということが一つの答えとなります。
ポジティブ心理学の研究は多岐に渡って進展しており、シンプルな答えを提示することも難しくなっています。ポジティブ心理学の創始者の一人であるセリグマン教授は、初期の論文で、「ポジティブ心理学は、個人とコミュニティの最適な機能を促進することを目指す、科学的研究である」と述べています。
従来の心理学は人の心理状態をマイナス5から0に回復することを目的としていますが、ポジティブ心理学の目指すところは「心理的健常者」をプラス5や8に高めることにあります。
また、ポジティブ心理学の確立に多大な貢献をしたクリストファー・ピーターソン博士は、「ポジティブ心理学は、人生を最も生きる価値あるものにすることを科学的に研究するもの」と言っています。
イローナ・ボニウェル博士は、ポジティブ心理学は「人間の生活におけるポジティブな側面(幸福や健康、繁栄)を研究する学問」であり、「信頼できる実証的研究を提供すること」を目指していると著書で伝えています。
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「他の人々との関係が重要」
ピーターソン博士は、ポジティブ心理学の研究者であり、「いい人生」を目指すために楽観性と強みと美徳の研究を行ってきました。
彼は「いい人生の中で最も大切なことは?」と聞かれたとき、常に「他の人との関係が重要」と答えていました。この簡潔な言葉には、人生において偉大な意味が隠されています。ポジティブ心理学の広がりに押しつぶされたときや、価値観を失ったときには、このピーターソン博士の言葉に立ち返ることで、明確な方向を見出せるかもしれません。
一人で行うことによって幸福度を高める方法は多数確認されていますが、家族・友人・同僚と「質の高い関係」を保つことは、いい人生を送る上でも非常に重要であることが分かっています。感情の研究でも、他者とポジティブな感情を共有することの効果が高く評価されています。
ポジティブ心理学の3つの領域
ポジティブ心理学は多岐にわたりますが、要約すると主に3つの基礎的な研究領域に分類されます。
1つ目は「主観的なレベル」です。これには、喜びや幸福、満足感、楽観的な考え、フロー経験などが含まれます。このレベルでは、「何か良いことをする」や「良い人である」、「良い気分になる」などが重視されます。
2つ目は「個人レベル」です。ここでは、人生を良くするには何が必要かということが研究されます。これには、強さや美徳、愛と許し、勇気や耐性、知恵や才能、創造力などが含まれます。
最後に「集団またはコミュニティレベル」があります。ここでは、市民としての美徳や社会的責任、利他的な考え、寛容性、倫理的なリーダーシップなどが研究されます。この研究は、より良い市民や組織、地域の発展のために利用されます。
発展を見せるポジティブ心理学
ポジティブ心理学は創立された当初は「心理学の新潮流」と呼ばれていました。がしかし、多くの研究が行われ、現在は心理学の一分野として確立しています。
特に注目されるのは以下の5つの応用分野です。これらは2013年7月にLAで開催された国際ポジティブ心理学協会の世界会議で講演された100以上の議題の中で、多く上げられたトップテーマでもあります。
・ポジティブ教育
・自己開発・コーチング
・組織開発・リーダーシップ
・ポジティブヘルス
・環境・行政政策
まとめ 〜ポジティブ心理学の発展を続けるために〜
ますます発展するポジティブ心理学。知識が陳腐化することを防ぐため、継続的な学習が不可欠です。
近年、アメリカだけでなくヨーロッパ諸国も研究が盛んです。ウェルビーイングに焦点を当てる国も多いです。また、アメリカの研究に単純に従わない批判的な精神も備えています。
コロナ禍になる前の中国でも研究が盛んで、国際会議も開催されていました。日本国内でも研究論文が増えています。
ウェルビーイングやレジリエンスが注目される中、ポジティブ心理学におけるエビデンスベースの科学的な研究と応用が発展することを期待されます。
引用文献
Diener, E., & Seligman, M. E. (2002). Very happy people. Psychological science, 13(1), 81-84.
Fredrickson, B. L. (2013). Love 2.0: How Our Supreme Emotion Affects Everything We Feel, Think, Do, and Become. Penguin. com.
Seligman, M. E. P., & Csikszentmihalyi, M. (Eds.). (2000). Positivepsychology [Special issue] American Psychologist, 55(1).
Seligman, M. E., Steen, T. A., Park, N., & Peterson, C. (2005). Positive psychology progress: empirical validation of interventions. American psychologist, 60(5), 410.
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執筆者の紹介
久世浩司
ポジティブサイコロジースクール代表
応用ポジティブ心理学準修士(GDAPP)
認定レジリエンス マスタートレーナー
当スクール代表の久世浩司は、ポジティブ心理学とレジリエンスを専門にしています。慶應義塾大学卒業後、P&Gに入社し、その後は社会人向けのスクールを設立。レジリエンス研修の認知向上と講師の育成に取り組んでいます。NHK「クローズアップ現代」や関西テレビ『スーパーニュースアンカー』などでも取り上げられ、著書による発行部数は20万部以上。研修・講演会の登壇は上場企業から自治体・病院まで100社以上の実績があります。
主な著書
『「レジリエンス」の鍛え方』
『なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?』
『なぜ、一流になる人は「根拠なき自信」を持っているのか?』
『リーダーのための「レジリエンス」入門』
『なぜ、一流の人は不安でも強気でいられるのか?』
『親子で育てる折れない心』
『仕事で成長する人は、なぜ不安を転機に変えられるのか?』
『マンガでやさしくわかるレジリエンス』
『図解 なぜ超一流の人は打たれ強いのか?』
『成功する人だけがもつ「一流のレジリエンス」』
『眠れる才能を引き出す技術』
『一流の人なら身につけているメンタルの磨き方』
『「チーム」で働く人の教科書』
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