レジリエンスを高める3つの方法
レジリエンスを高める方法や鍛え方を紹介
仕事でトラブルやストレスを避けることはできません。「失敗して気になり、眠れない日が続き、朝になっても会社に行くのが憂鬱」といった経験はありますか? このように、ネガティブな思考が頭の中で繰り返される「ぐるぐる頭」で困っている人が増えています。そんな自分を変えたいと思っていても、解決策が見つからないといった方もいらっしゃいます。
そこで、気分が落ち込んだ時に頭を切り替え、ストレスを乗り越えるためのスキルとして「レジリエンス」を身に付けることをお勧めします。
この記事では、社会人や学生がレジリエンスを高めるための3つの方法について説明します。
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レジリエンスはもともと誰でも持っている力
レジリエンスは、ストレスや心の落ち込みから立ち直る力です。
現代社会においては、不安やストレスが多い状況であり、レジリエンス力の高い人材が求められています。
レジリエンスは性格によって決まるものではありません。誰もがもともと持っている力です。ただ、ストレスが重なったり睡眠不足や体調不良になったりすると、レジリエンスの力が弱まります。レジリエンス力が脆弱になると、少し気持ちが乱されただけでも心が折れて元に戻れなくなり、「ぐるぐる頭」やメンタルヘルスの低下などの事態を招くのです。
レジリエンス力を強めることで、心が折れないようになり、失敗や落ち込みから立ち直り、積極的な人関係を築けるようになります。最も大事なことは、自分にレジリエンスの力が備わっていることを自覚することです。
レジリエンスは訓練することができる
レジリエンスはトレーニングすることで高めることができます。心の筋肉としてのレジリエンスを鍛えることで、逆境から早く立ち直れるようになります。ただし、筋肉と同様にレジリエンスも放置すると弱まりますので、日々のトレーニングが大切です。
以下に、誰にでもできる効果的なレジリエンス力アップの3つの方法を紹介します。
レジリエンスを高める3つの方法
1)自分の強みを見出し、活用する
レジリエンスを高める上で、自分の強みを活用することは有効です。
自分の「強み」とは、心理学的には「本質的で自分に活力を与え、最高の実力や成功に導く内在する資質」と定義されています。自分の強みを知ることは、モチベーションの向上、明確な方向性、高い自信、生産性の向上、目標達成の確率の向上などに役立ちます。
また、いくつかの強みは幸せと関連しており、それはさらにレジリエンスを高めることに役立つ精神状態となります。ポジティブ心理学の創始者であるマーティン・セリグマン教授は、「良い人生とは、自分の特徴的な強みを毎日使い、本物の幸せや豊かな満足を生み出すことである」と述べています。
失敗を教訓に新たなチャレンジに挑戦できる人と、失敗に立ち直れない人の違いの一つには、自分の強みを把握してそれを生かしているかどうかが挙げられます。
自分の強みに気づいていない人
すべての人には強みがありますが、自分の強みが分からないこともあります。これは、強みが当たり前すぎて自分で見つけにくいという「強みの盲目性」が原因です。
「自分には強みがない」と思っている人は実際にはまだ強みを認識していないだけです。自分だけの「強み」を持っているのに、それを生かせないことはもったいないです。強みを知り、磨いてレジリエンスを向上させることが大切です。
身近な人に強みを聞く
自分の強みが分からないときは、自分をよく知っている家族や友人に尋ねることが有効です。直接的に「自分の強みは何だと思いますか?」と聞かず、自分の経験について語った上で尋ねることが良いでしょう。
話す経験には、夢中になって取り組んだことや、楽しみながら成功を収めた体験がおすすめです。このような経験は、多くの場合自分の強みを生かしているからです。
例えば、学生時代に部活動に力を入れて結果を出したエピソードや、楽しみながら挑戦した仕事のプロジェクトなど。周りの人にその話を聞いた後に感じたことを教えてもらうと、例えば「忍耐力があると思った」や「リーダーシップがあるよね」など、具体的な強みが指摘される可能性が高まります。
なお、他の人の経験談を聞くときは、相手の表情や声色に注意してみてください。自分の強みを生かした経験を語るとき、目が輝いたり、声が高くなったり、言葉が強くなったりすることがあります。このようなサインから相手の強みを見つけて、彼に教えてあげることもできます。
VIA強み診断テストを受けてみる
自分の強みを詳しく知りたい場合、心理学者が開発した診断ツールを利用することもできます。
例えば、VIA強み診断テストを受けてみてください。VIA研究所が無料で提供するこのテストでは、心理学者によって分類された24の種類の強みの中で、自分に当てはまるものがリストとして確認できます。「創造力」、「勇気」、「親切」、「公正」、「大局観」、「審美眼」など、自分を特徴付ける強みを把握することができます。
強みを仕事で生かそう
自分の強みを認識することは大切ですが、単に知るだけでは不十分です。
大事なことは、強みを使うことです。毎日の仕事や生活で強みを活用することで、逆境から立ち直る力(レジリエンス)を鍛えることができます。実際に、強みを仕事に生かしている人は、落ち込んだときに立ち直りやすく、幸福感も高いことが確認されています。
例えば、創造力や学習意欲といった強みがあると分かった場合、「企画や開発、研究などの知識や分析を使って何かを生み出す仕事が、自分の強みを生かせる仕事か?」と考えることができます。このように、より活発に働くために、「どんな仕事であれば自分の強みを生かせるのか?」と考えてみることも有効です。
ただし、仕事を変えることは簡単ではありません。そのような場合は、無理に仕事を変えようとせず、現在の仕事で自分の強みを活用できる点を考えてみましょう。例えば、営業職の人で創造力が強みである場合は、新しい営業方法を提案したり、独自の顧客開拓法を考え実践することで、創造力を活用できる可能性があります。
また、「仕事では経験やスキルを使って成果を出す」と割り切って、強みはプライベートの趣味などで発揮するというのも、一つの方法だと思います。
2)いかに困難から回復したかのプロセスを振り返る
「私たちの成功は、高く上ったかどうかではなく、低いところからどれだけ高く跳ね返せたかで計るのだ」というのは、ジョージ・パットン将軍の言葉です。このことから、レジリエンス力を高めるには、困難から回復する過程を振り返ることが大切です。
研究によると、目標の達成に向けて行動するためには「目標の進捗を確認すること」が重要であることがわかっています。人々が進捗を公に報告するか、または記録することで、目標に向けて継続する可能性が高まります。
小さな進捗でも、自分の進捗を認めることで、大量のドーパミンが脳から放出され、行動に対する報酬が与えられます。このことで行動が強化され、挫折があっても乗り越えられる可能性が高まります。
レジリエンス力を高めるには、これまでの歩んできた道を振り返り、前進の原動力となっているもの、困難をどのように受け入れてきたかを考えてみてください。
「逆境体験からの成長」について
危機的な状況に直面してもがき苦しみながらも乗り越えた人は、その経験を通じて自己成長することがあります。これは稀なことではありません。研究によれば、このような現象は「心的外傷後成長(PTG)」と呼ばれています。
これは精神的な痛みを伴う経験の後に訪れる内面的な成長のことを指します。生きていることへの感謝や自信の増加などが見られます。
逆境を乗り越えた経験を振り返ることで、自分の強みや助けてくれる仲間を発見することもあります。マンガやアニメでは、困難を乗り越えて主人公が成長するストーリーが人気ですが、現実にも同様のことが起こることもあります。
「自分史グラフ」を書いて振り返る
「自分史グラフ」を描くことで逆境体験を振り返りましょう。横軸に「時間(年齢)」、縦軸に「感情」を定義し、これまでの自分の経験を思い出しながら、感情の変化を描画するとよいです。
文字よりも図表現の方が自分の体験を俯瞰することができます。グラフを描いたら、感情曲線が最低値から上昇する過程を振り返り、何が起こり、どのような感情を抱いたのかを記録してください。
逆境体験を振り返る際に重要なポイントは、3つあります。
1つ目は、立ち直った者の立場で振り返ることです。過去の辛い経験を被害者的に回顧することがありますが、悲観的な見方ではなく前向きな姿勢で振り返ることが大切です。まだ立ち直っていない体験を振り返る必要はありません。
2つ目は、苦境の原因や理由ではなく、精神的な落ち込みから脱却したきっかけを思い出すことです。原因や理由にすぎないと、反省点だけが思い浮かび、再びネガティブ感情の悪循環に陥る可能性があります。そのため、自分がどのような行動をして悪循環を断ち切ったのか、誰から支援を受けたのかなど、立ち直るきっかけを思い出すことが大切です。
3つ目は、底を打った状態から立ち直るときに、どのように回復したかを省察することです。活用した自分の強みや、心が折れそうになったときにどのサポーターに助けられたのか、誰に感謝を感じたのかなどに着目することで、自分が困難から立ち直る力を養ったプロセスを知ることができます。
困難を乗り越えた自分の自信が高まる
困難を乗り越えた経験は貴重で、自分は困難にも立ち向かえるという自信(自己効力感)を得ることができます。次の挑戦に対しても「なんとかなる」という自信が湧きます。
苦労は成長のための価値がありますが、意図的に逆境に自らを陥れる必要はありません。しかし、苦しい体験があった場合、振り返りを通じて「失敗しても立ち直れる」という自信を育てることは有効です。このような自信を持っていると、新しい挑戦に向かって一歩を踏み出しやすくなります。
3)支援を求めることが大切
自分一人で頑張りすぎるのは避けましょう
一人で負担をかかえ過ぎ、パンク寸前に陥った経験はありませんか?
責任感が強い人は、周りから支援を求めずに一人で頑張りがちです。また、自責心が強い人はトラブルが起こったとき、「これはすべて私の責任」と思い込み、助けを求めずに解決を試みます。
さらに、自分と他人を比較して、自分の不足を気にする減点思考の人は、他人と比較されることを恐れて、ミスを隠そうとします。このような状況で、失敗したり、大きなトラブルが起こった場合、大変なことになります。
自力で解決を試み、さらにストレスを増やしてしまいます。心が強い人ほど、悪循環に陥りやすくなります。そのため、周りからの支援を求めることが大切です。
心の支えとなる人がいるか?
「誰かが心の支えになっているか?」という疑問を持つことがあるかもしれませんが、レジリエンス力が高い人たちは、単独で困難に打ち勝つことを考えません。彼らは家族や仲間の助けが大切であることをよく理解しています。
レジリエンスの研究によると、落ち込んでもすぐに立ち直れる人ほど、「心の支えとなる人」が周りにいることがわかっています。これらの人たちは、自分だけで立ち直るのではなく、周りの支援を受けながら立ち直っています。
このような、困難な状況で得られる周りの支援を「社会的支援」と呼びます。多くの人にとって、社会的支援を与えてくれるのは家族や友人ですが、信頼できる上司や同僚から助けを受けることもあります。
逆境から立ち直るためには、困難な時に心の支えとなってくれる「サポーター」が必要です。大きなトラブルや失敗が起こったときにサポーターを探すのは遅すぎます。いざというときに助けてもらえる人との良い関係を日頃から築くことが大切です。
「ゆるいつながり」も大事
とくには「ゆるいつながり」も重要です。
実際、サポーターになるのは、身近な人たちだけではありません。例えば、転職を考えている場合は、上司や同僚には相談しにくいかもしれません。そんなときには、キャリアカウンセラーなどがサポーターになることもあります。
近年、ビズリーチやLinkedInなどを通じて、ヘッドハンターなどから声がかかることも増えています。キャリアに関して言えば、現在転職する気がないとしても、いざという時に相談する人を見つけ、定期的にキャリアについて話す機会を作っておくこともお勧めです。
また、人生には、病気や予想外の事態も起こります。そんなときは、かかりつけの医師も重要なサポーターになりますし、信頼できる心理カウンセラーも、心に不調が起こったときに助けを求めることができるサポーターです。
家族や同僚、親しい友人だけでなく、年に1回、または数年に1回相談する「ゆるいつながり」を持っている人も、いざというときに頼りになるサポーターになり得ます。
アメリカの社会学者であるマーク・グラノベッタは、「弱いつながりが強みとなる」という考え方を示しました。普段めったに会わない人と会うことで、多様な視点を得られ、思いがけない援助が得られることがあります。
支援希求とは?
「支援希求」とは、周りの人から助けやアドバイスを求めることを意味します。レジリエンスの高い人は「支援希求」スキルを持ち、困ったときには力を発揮します。
人とのコミュニケーションや他人を助けること、前向きな姿勢を持つことは、レジリエンスを学ぶ上でも重要なことです。ハーバード大学で教えられている「ポジティブ心理学」の授業でも、このテーマに関連する内容が掘り下げられています。
クリストファー・ピーターソン博士は、ポジティブ心理学の創始者の一人であり、楽観性や強みと美徳の研究を行って「いい人生」を追求してきました。彼が「いい人生で最も大切なものは?」と聞かれたときの答えは「他の人々との関係性」でした。
家族・友人・同僚と「質の高い関係」を築くことは、レジリエンス力を高めるだけでなく、「いい人生」を送るためにも非常に重要です。
まとめ
- 自分の強みを見つけて、活用する。
- 回復した過程を振り返る。
- 支援を求めるスキルを持つこと。
レジリエンス力を高めることは容易ではないかもしれませんが、練習を重ねることで簡単になります。仕事や日常生活を改善するために、レジリエンス力を高めていきましょう。
参考文献
- Clifton, D. O., & Anderson, E. C. (2001). StrengthsQuest. Washington: The Gallup Organisation.
- Hodges, T. D., & Clifton, D. O. (2004). Strengths-based development in practice. In P. A. Linley & S. Joseph (Eds.), Positive psychology in practice (pp. 256-268). New Jersey: John Wiley & Sons, Inc.
- Harkin, B., Webb, T. L., Chang, B. P. I., Prestwich, A., Conner, M., Kellar, I., Benn, Y. & Sheeran, P. (2016). Does Monitoring Goal Progress Promote Goal Attainment? A Meta-Analysis of the Experimental Evidence. Psychological Bulletin, 142 (2), 198-229.
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久世浩司
ポジティブサイコロジースクール代表
応用ポジティブ心理学準修士(GDAPP)
認定レジリエンス マスタートレーナー
当スクール代表の久世浩司は、ポジティブ心理学とレジリエンスを専門にしています。慶應義塾大学卒業後、P&Gに入社し、その後は社会人向けのスクールを設立。レジリエンス研修の認知向上と講師の育成に取り組んでいます。NHK「クローズアップ現代」や関西テレビ『スーパーニュースアンカー』などでも取り上げられ、著書による発行部数は20万部以上。研修・講演会の登壇は上場企業から自治体・病院まで100社以上の実績があります。
主な著書
『「レジリエンス」の鍛え方』
『なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?』
『なぜ、一流になる人は「根拠なき自信」を持っているのか?』
『リーダーのための「レジリエンス」入門』
『なぜ、一流の人は不安でも強気でいられるのか?』
『親子で育てる折れない心』
『仕事で成長する人は、なぜ不安を転機に変えられるのか?』
『マンガでやさしくわかるレジリエンス』
『図解 なぜ超一流の人は打たれ強いのか?』
『成功する人だけがもつ「一流のレジリエンス」』
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