PTG(心的外傷からの心理的成長)とは?
PTGとレジリエンスを理解する
「トラウマからの成長:PTGとは」
トラウマという言葉は暗い印象を持たれがちですが、実際には、その苦難を乗り越えた人が内面的な変化を経験することもあります。ポジティブ心理学においてこのような変化のことを「心的外傷後成長(PTG)」と呼びます。
PTGとは危機的な出来事や困難な経験を乗り越えた後に、ポジティブな心理的変容が生まれることを指します。この状態は、心が粉々になるような困難な体験を通じて、内的な成長がもたらされる様子が「ステンドグラス」のように表現されます。
90%以上のトラウマ被害者が、ストレス多い経験後に少なくとも一つの方面でPTGを経験するという調査結果もあります。この記事では、PTGについて分かりやすく解説します。
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PTGとは? 心的外傷から自己の成長を実感する
PTGは「Post Traumatic Growth」の略語で、心的外傷から自己の成長を実感する心理状態を意味します。ストレスの多い出来事の後に生じる心理的変容で、苦難を乗り越えて内面からの成長が見られます。
PTGを体験することで、人生に対する感謝の気持ちや回復力が増します。
PTGの研究者 - 危機的な体験から成長する人々の調査
90年代半ばに、リチャード・G・テデスキ博士とローレンス・カルフーン博士によって、PTGの研究が行われました。二人は、大きな危機的体験やトラウマを経験している人々から成長することに注目し、研究を行っています。
PTGの研究対象は、トラウマに該当する出来事(自然災害、病気、事故、事件、戦争体験)を中心に、ストレスを伴う体験まで含まれます。
レジリエンスに関心のある方には、PTGの研究について知っていただくことが大切です。
PTGにおける人の5つの成長
テデスキ教授とカルホーン博士は、困難な出来事を経験した人がどのように変化しているかを測定する「心的外傷後成長尺度」(PTGI)を作成しました(Tedeschi & Calhoun, 1996)。
研究結果によると、主に以下の5つの成長が見られました(Tedeschi & Calhoun, 2004)。
- 他者関係:他者との親密感が増し、人間関係に重視するようになった。
- 精神的変容:宗教的な信念が強くなり、人間のすばらしさを学んだ。
- 人生の感謝:毎日に感謝するようになり、他者を思いやるようになった。
- 新しい可能性:自分の人生の価値を理解し、新しい興味をもった。
- 人間の強さ:自分の強さを実感し、困難に対処できるようになった。
震災経験からのPTGと自分
私も多くの人がトラウマとなる災害に被災した経験があります。
以前に住んでいた神戸で阪神・淡路大震災で被災し、大きな怪我はなかったものの急激な視力低下が起き、眼鏡をかけるようになりました。震災直後に倒壊した家屋やへし折れた電柱、ひび割れた道路などの惨状を目撃し、そのときのショックを忘れることはできません。
私の場合は、被災して数年後に「自分は恵まれていた、生かされていた」と気づき、霊性の意識を高め、人生や仕事の意味について自問するようになりました。会社を退職してポジティブ心理学とレジリエンスを多くの人に教えるために、当スクールを創業したのも、その気づきがきっかけでした。
「PTG」と「PTSD」の違いについて
「PTSD」という言葉は聞いたことがありますか? 私がこの言葉に注目したのは、1995年の阪神淡路大震災の後です。私も被災し、被災者の多くがPTSDの症状で悩んでいるという新聞記事を目にしました。
正式には「心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder)」と呼ばれ、危うく死ぬまたは重傷を負うような出来事の後に起こる心に加えられた衝撃的な傷が原因で、過度の不安や不眠、フラッシュバックなどを引き起こす疾患です。PTSDの診断には一ヶ月以上の時間が必要です。
逆に、PTG(Post Traumatic Growth)は、ストレスやトラウマの経験は人々にとって良い側面もあることが示されています(Haidt, 2006)。
PTGとレジリエンスの違い
PTGとレジリエンスは似た概念ですが、異なるとされています。
レジリエンスはストレスから立ち直るための個人的な能力で、生まれ持っているかもしくは獲得することがあります。PTGはトラウマからの心理状態であり、生まれ持っていない後天的なものです。また、PTGには長い時間と葛藤が必要ですが、レジリエンスのある人は葛藤なく回復できます。
逆に、レジリエンスの低い人はトラウマに陥りやすく、葛藤からPTGを経験するかもしれません。PTGの研究者の宅香菜子博士は、「レジリエンスを多くの人がトレーニングすることで、トラウマや辛い経験をすることなく回復できる人が増えるので、PTGを経験する人は減るかもしれません。でも、それは良いことだと思います。なぜなら、PTGは辛く苦しい経験だからです」ということでした。
まとめ
PTGは辛い体験で、ポジティブな感情よりもネガティブな感情が多いと考えられます。しかし、その辛さを経て人生に意味が生まれる可能性があります。
経営学では「試練を経たリーダーシップ」や「一皮むけた経験」も研究されています。貴重な学びのプロセスとして、人生やキャリアの節目で過去の体験を振り返り、人関係や自分の強みを再考して優先順位を確認することができます。このような過程を経て、成長することが期待できます。
引用文献
- Bennis, W. G., & Thomas, R. J. (2002, September). Crucibles of leadership. Harvard Business Review (pp. 5–11).
- Calhoun, L. G., & Tedeschi, R. G. (1990). Positive aspects of critical life problems: Recollections of grief. Omega-Journal of Death and Dying, 20(4), 265-272.
- Haidt, J. (2006). The happiness hypothesis: Putting ancient wisdom and philosophy to the test of modern science. Arrow Books: London.
- Tedeschi, R.G., & Calhoun, C.G. (1996). The Posttraumatic Growth Inventory: Measuring the positive legacy of trauma. Journal of Traumatic Stress, 9, 455 – 471.
- Tedeschi, R.G., & Calhoun, C.G. (2004). Posttraumatic growth: Conceptual foundations and empirical evidence. Psychological Inquiry, 15, 1 – 18.
- 金井壽宏 (2002). 仕事で「一皮むける」光文社新書
執筆者の紹介
久世浩司
ポジティブサイコロジースクール代表
応用ポジティブ心理学準修士(GDAPP)
認定レジリエンス マスタートレーナー
当スクール代表の久世浩司は、ポジティブ心理学とレジリエンスを専門にしています。慶應義塾大学卒業後、P&Gに入社し、その後は社会人向けのスクールを設立。レジリエンス研修の認知向上と講師の育成に取り組んでいます。NHK「クローズアップ現代」や関西テレビ『スーパーニュースアンカー』などでも取り上げられ、著書による発行部数は20万部以上。研修・講演会の登壇は上場企業から自治体・病院まで100社以上の実績があります。
主な著書
『「レジリエンス」の鍛え方』
『なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?』
『なぜ、一流になる人は「根拠なき自信」を持っているのか?』
『リーダーのための「レジリエンス」入門』
『なぜ、一流の人は不安でも強気でいられるのか?』
『親子で育てる折れない心』
『仕事で成長する人は、なぜ不安を転機に変えられるのか?』
『マンガでやさしくわかるレジリエンス』
『図解 なぜ超一流の人は打たれ強いのか?』
『成功する人だけがもつ「一流のレジリエンス」』
『眠れる才能を引き出す技術』
『一流の人なら身につけているメンタルの磨き方』
『「チーム」で働く人の教科書』
Amazonビジネス書ランキング2位(2014年2月)
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久世浩司 著 本体1400円(税別) 実業之日本社 |
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