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セリグマンのポジティブ心理学
要約『ポジティブ心理学の挑戦』

マーティン・セリグマン(著)
初稿:2015年1月
改訂:2023年2月13日

 

「幸せ」の追求を越えて、「ずっと続く幸せ」をとことん追求した一冊

 

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「ポジティブ心理学の挑戦」という、ポジティブ心理学の父であるマーティン・セリグマン教授の著作をご紹介します。

 
この本は、前著「世界でひとつだけの幸せ」以来の10年間のポジティブ心理学の進展を追跡しています。ポジティブ心理学の歴史から最新の研究や応用まで、ポジティブ心理学の全貌が明らかになった必読の書です。
 

「ウェルビーイング理論」への発展

従来のポジティブ心理学は「幸福」を主なテーマとしていました。その「幸福」は「人生の満足度」によって決まるとされており、「人生の満足度」を最大限に高めることが目的でした。この考え方は、「世界でひとつだけの幸せ」という前著の成功によって証明されました。
 
しかし、セリグマン教授は本書で、ポジティブ心理学の本質的なテーマは「ウェルビーイング」であると提唱しました。「ウェルビーイング」は「幸福」のような一時的な感情に左右されない多次元的な概念であると説明しています。
 
「世界の幸福度ランキング」などで日本人は低いポジティブ感情度とされていますが、「低いポジティブ感情度=不幸」ということは短絡的で誤りであるとウェルビーイング理論が示しています。


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■ウェルビーイングの五つの構成要素「PERMA」

ウェルビーイング理論では、ウェルビーイングは5つの要素により構成されていると考えられています。これらの頭文字を取って「PERMA」と呼ばれています。この5つの要素は、測定可能なものです。また、このウェルビーイング理論には、従来のセリグマン教授の提唱した理論に2つの要素(関係性と達成)も加えたものにになっています。
 
Positive Emotion(ポジティブ感情)
Engagement(エンゲージメント)
Relationships(関係性)
Meaning(意味・意義)
Achievement(達成)
 
これらの五つの要素を改善する事によって、持続的な幸福(Flourishing)の実現が可能であるとセリグマン博士は述べています。


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ポジティブ心理学のさまざまな応用事例

ポジティブ心理学は、個人レベルから臨床現場まで幅広い場面で活用されています。本書では、「感謝の訪問」や「うまくいったことエクササイズ」など個人レベルでのポジティブ心理学の効果が実証された事例が紹介されています。
 
また、臨床現場ではポジティブサイコセラピーが抑うつ患者の治療に効果的であったという症例も数多く報告されています。従来の治療法(認知療法や薬)に頼りすぎることは根本的な解決にはつながりませんと言われています。ポジティブ心理学では、患者の「ウェルビーイング」を高め、自己自身を強化させ、病気とうまくつき合う生き方を教えることこそが根本的な解決の道であると主張しています。
 
一方、ウェルビーイング理論は、その応用が個人レベルや医療領域にとどまらないという特徴があります。公共政策や学校教育などを通じて社会全体の持続的な幸福の実現に向けて応用されています。本書では、代表的な介入事例(米軍のペン・レジリエンシー・プログラムやオーストラリアの学校のジーロン・グラマー・スクール・プロジェクト)も紹介されています。
 

■ 楽観主義と現実主義の違いとは?

エグゼクティブコーチにはポジティブシンキングを信じる者もいますが、一方で現実主義と矛盾すると考え、ポジティブシンキングを完全に避ける学者もいます。
 
セリグマン教授は、両者が両立することが重要だと主張します。例えば、株価や市場価値は人の意見や認識に大きく影響される場合、楽観主義を支持すべきですが、天候などの楽観主義が影響を及ぼさない場合は現実主義を採用すべきだと言います。
 
高校時代に恩師から「頭は現実主義で、心は理想主義で」というアドバイスを受けましたが、これは博士の考えと同じようなものだと思います。
 
また、セリグマン教授は楽観主義を活用することが重要な場面として「結婚生活」を挙げています。研究によると、夫婦が互いに相手を「ポジティブ」に見ていると、良い結婚生活を送ることができるようです。これは、相手の幻想を理解し、それに応えようと努力するためであり、楽観主義が愛情を醸成するという結論が出ています。
 
私は結婚する際に「恋愛中は両目を開いて相手をよく見て、結婚した後は片目を閉じる程度がちょうどいい」という父親からのアドバイスを受けましたが、相手に勝手な幻想を抱き、結果その通りに行動させてしまう、というのは更に強力なアドバイスだと納得しています。
 

■ お金と幸福の関係

「お金と幸福の関係」に関して、これまでに多くの研究が行われていますが、「お金があれば幸せになれる」という錯覚はもはや明らかです。研究結果によると、「経験」を買うことが「商品」を買うことよりもウェルビーイングに寄与するということがわかっていますが、この研究結果が現実社会では十分に活用されていないという問題もあります。
 
経済学では国の繁栄を「GDP」で表し、政策もGDPの増大に重点が置かれていますが、このような経済学の観点からは、離婚や交通事故、精神安定剤の使用者の数の増加など、実際には国民の幸せに寄与しない要因も繁栄要因とされています。
 
学校教育においても、親たちが子供に望むのは「幸せな人生」ですが、学校教育ではそのために必要な知識や能力よりも、将来お金を稼ぐため、有名大学に入るため、社会で成功するための教育が重視されています。
 

■ ポジティブ心理学の挑戦

セリグマン教授は、私たちが直面する多くの矛盾に正面から立ち向かい、人類の究極なテーマを問いかけます。
 
私たちが本当に求めるべき幸福とは何ですか? そのために、個人、親、教育者、国、社会が最優先に取り組むべきことは何ですか?
 
そして、そのための実践的な方法を科学的に解明することが、今のポジティブ心理学の課題です。それこそが、教授の「ポジティブ心理学の挑戦」と言えます。
 

目次

序文

第1部 新・ポジティブ心理学 
 第1章 ウェルビーイングとは何か?  

     新しい理論の誕生
     最初の理論:幸福理論
     幸福理論からウェルビーイング理論へ
     ウェルビーイング理論とは
     ウェルビーイングの五つの要素
     ウェルビーイング理論のまとめ
 
    ポジティブ心理学の目標としての持続的幸福

 第2章 幸せを創造する―—ポジティブ心理学エクササイズ  

     感謝の訪問
     ウェルビーイングは変えられるか?
     うまくいったことエクササイズ
     ポジティブ心理学の介入と事例
     特徴的強みエクササイズ
     ポジティブサイコセラピー

 第3章 薬とセラピーの“ばつの悪い秘密”  

     治療vs症状緩和
     65パーセントの障壁
     積極的—建設的反応(ACR)
     ネガティブな感情とつき合う
     治療への新たなアプローチ
     応用心理学vs基礎心理学——問題vs永遠の謎
     ウィトゲンシュタイン、ポパー、ペンシルベニア大学

 第4章 ペンシルベニア大学MAPPプログラム 

     MAPPの魔法の成分
     1年目のMAPP
     応用ポジティブ心理学の授業
     個人的・職業的な変容
     変容すること
     ポジティブ心理学という天職

 第5章 ポジティブ教育——学校でウェルビーイングを教える  

     ウェルビーイングを学校で教えるべきか?
     ペン・レジリエンシー・プログラム(PRP)
     ジーロン・グラマー・スクール・プロジェクト
     ポジティブ・コンピューティング
     繁栄に関する新しい指標

第2部 持続的幸福への道 
 第6章 知性に関する新理論——根気、徳性、達成

     成功と知性
     ポジティブな徳性
     知性とは何か
     根気の利点
     成功の要素を強化する  

 第7章 アーミー・ストロング―—総合的兵士健康度プログラム

     心理的健康度の高い陸軍
     グローバル・アセスメント・ツール(GAT)
     オンライン講座

 第8章 トラウマを成長に変える 

     心的外傷後ストレス障害 
     心的外傷後成長(PTG)
     心的外傷後成長に関する講座
     マスター・レジリエンス・トレーニング(MRT)
     実施計画

 第9章 ポジティブヘルス―—楽観性の生物学

     医療を覆す
     学習性無力感理論の起源
     心血管疾患(CVD)
     感染症
     ガンと全死因死亡
     ウェルビーイングの因果関係と身体への影響
     ポジティブヘルス
     心血管の健康資産
     健康資産としての運動

 第10章 ウェルビーイングの政治学・経済学

     お金を越えて
     GDP とウェルビーイングの相違
     経済不況
     PERMA51
 
     付録 強みテスト(簡略版VIA)

 
神谷雪江(Masters of Applied Positive Psychology修了)

 
 

執筆者の紹介

神谷雪江
米・ペンシルベニア大学大学院 応用ポジティブ心理学修士課程(MAPP)第一期生。修了後は、日本で人事コンサルティング会社に勤務し、ポジティブ心理学の、組織・人事への応用に従事。2009年より米・ボストンに移り、グローバル人材の採用や翻訳業に従事。 強み診断ツール「Realise2」の翻訳にも携わる。