仕事ストレスとは?

初稿:2013/9/3
改訂:2023/1/7

 

仕事によるストレスの問題


職場でのストレスは、日本だけでなく他の国でも問題になっている。


厚生労働省の調査によると、ストレスや悩みを抱えている日本人は、約半数近くいることがわかった。中でも30〜40代に多く、しかも男性よりも女性がストレスをもちやすいようだ。


欧米でも職場におけるストレスは、従業員の業務遂行能力や生産性を低下させ、ミスや事故を誘発し、さらにはメンタルヘルスの悪化を招き欠勤・離職に結びつくため、企業としても無視することができない「コスト原因」となっている。


7月に米・ロサンゼルスで開催された「第三回ポジティブ心理学世界会議」でも、「仕事ストレスからの回復と主観的幸福度」という主題で行われた基調講演に非常に多くの参加者が集まっていた。ざっと千人近くはいただろう、大会場がぎっしりと埋まっていた。講演者の独・マンハイム大学組織心理学部教授 サビネ・ソネンタグ博士はそれほど著名な学者ではないので、テーマが参加者の注目を惹いたに違いない。


職務ストレスは私の専門である「レジリエンス・逆境力」とも関わりがあるため、会議の参加後に博士の主要論文を一通り目を通してみた。非常に興味深い内容だったので、このニュースレターにその研究の要旨をまとめてみた。


「回復」とは心理学的には「機能システムがストレスを受ける以前のレベルに戻るまでのプロセス」を意味する。身体的機能のみならず、感情や心理的機能が健常な状態に戻ることを回復(リカバリー)と称するのだ。


ちなみに「困難な経験に伴うネガティブな感情に対処し、それを乗り越えた後の精神的・感情的・職業的な発達のプロセス」をレジリエンスと呼ぶ。「回復」は元の心身の状態に戻るのに対し、「レジリエンス」は発達を伴う点が異なると考えられる。そして「非常に厳しい人生の危機で精神的な痛みを伴った後に起こるポジティブな変化」をPTG(トラウマ後の成長)と呼ぶ。


これらの「回復」「レジリエンス」「PTG」はどれも「いい人生・いいキャリア」をおくる上で重要な力となると考える。とくに「レジリエンス」と「PTG」は人生の修羅場やキャリアの節目を乗り越えるために欠かせない。

休暇での疲労回復度は一時的

ソネンタグ博士話を「回復」の研究に戻すと、この研究がポジティブ心理学において注目された理由は、人は回復をする過程で「幸福感」を感じることがあるからだ。そしてハイクオリティな回復をすることで、私たちは仕事に対しての積極性が増し、同僚との協力も進むなどの職場における効果があるらしい。つまり従業員が正しい回復をする習慣を身につければ、結果としてウェルビーイングが高まり、「いい職場」を形成する助けとなるのだ。

では、何が正しい回復のプロセスなのだろうか?

一般的には、回復のためには充分な休暇をとることが重要だとされている。たとえば、欧米で働く人は夏やクリスマスなどで長期休暇をとる人が多い。ヴァカンスが習慣になっている。勤務態度が真面目な日本人社員は、有給休暇消化率が低い。

しかしながら、職場のストレス問題は、日米欧のどの会社でも存在する。休暇そのものは良いとしても、その回復効果はどれほどのものか? ソネンタグ博士はそのような疑問をもち、調査を行った。目的は「休暇における回復の効果はどれほど長く続くのか?」、そして「ウェルビーイングを高める回復の方法は何が適当か?」であった。

そこでまずわかったのが、仕事ストレスにおける疲労感は休暇によって回復するが、その効果は一時的なもので、しばらくすると元の疲労レベルに戻ってしまうということだった。休暇の回復効果は短期的であるということが判明した。

それではどうすればいいのだろうか? ソネンダグ博士の答えは「日常の生活で回復を促す習慣をもつことが大切である」ということだった。

心理的に仕事からディタッチする習慣

しかも、ただリラックスをすればいいというものでもない。心理的な状態が重要だと言うのだ。

まず第一に、仕事におけるストレスは、身体的な疲労だけではないことを理解することが大切だ。オフィスで働くナレッジワーカー(知識労働者)であれば、身体の疲れ以上に、心理的なストレスや感情的な疲労のほうが大きいだろう。

とくに注意が必要なのが「時間のプレッシャーによるストレス」「人間関係の摩擦によるストレス」「自分の責任感から生まれるストレス」を感じやすい人だ。これら心理的・感情的なストレスは、ネガティブな感情を発生させ、私たちを苛立たせ、ときには活力を消耗し、疲労感を増加させる。

第二に、仕事への愛着心が強い真面目な人は、たとえば疲労回復のためにマッサージをしても、心の底からくつろぐことができない。それは、心理的に仕事から離れることができないからだ。とくに最近はスマホなどの携帯端末の進化の結果、いつどこにいてもメールを見ることができる。職場を離れても、休暇先にいても、ついメールをチェックしてしまう誘惑から逃れられない。

これらのストレスに悩んでいる人には、一般的なリラックスはあまり有効ではない。それよりも「心理的に仕事からディタッチメントすること」が重要であるとソネンダグ博士は伝える。心理的ディタッチメントができている人は、感情疲労度が少なく、幸福度が高いことが調査によって判明している。しかも、休暇中だけではなく、日常的にディタッチする習慣をもてると、回復の効果が高い。

仕事後にディタッチする習慣をもつ

具体的には、オフィスを一歩で出たら、仕事からディタッチする習慣をもつことだ。

ジョギングやエアロビスク、ヨガなどのエクササイズをすることは効果が高い。身体を動かして没頭することで、職務から心理的に離れることが可能だからだ。何か没頭できる趣味を行うことも薦められる。音楽を演奏する、または音楽を聴くことも、音楽好きには効果が高い。瞑想やマインドフルネスを習慣とすることもディタッチメントを促進することが実証されている。

逆効果なのが、仕事に関係する活動だ。たとえば同僚との気晴らし活動。カラオケや飲みに行くことは、あまりおすすめではない。その場で仕事の悩みや上司の愚痴などが話されると、心理的にディタッチするどころか仕事モードに頭が切り替わってしまう。スポーツをするにしても、会社のクラブ活動やサークルよりも、会社とは関係のない人との集まりのほうが疲労回復には効果的だ。向学心や好奇心が強い人は、社外の勉強会やセミナーに参加して、自分の仕事とは関係のない人と対話をすることも有効である。

朝の心理状態が違いをあらわす

回復がうまくできると、ある変化が訪れる。それは自分の内面に注意を払わないと気づかないかもしれない。どんな変化かというと、翌朝にすがすがしく活力に満ちた状態で起床できることである。

睡眠は身体の疲れを回復する効果があることはわかっている。さらに、ストレスを伴う仕事から心理的にディタッチした状態で眠りにつくと、心の疲れも夜のうちに癒してくれるのだ。その結果、朝の起床時には心身がリフレッシュした状態で新たな一日をスタートすることができる。

ウェルビーイングを高める回復の成果は、朝の起床時の心理状態に表れる。前の日にやり残した仕事や心配事をもやもやと考えながら目覚めの悪い朝を迎えるか、それともクリアな心理状態で爽やかな朝を迎えるか。その違いが、その日の生産性や幸福感を左右する。

仕事後に職務から心理的にディタッチして、夜はぐっすりと安眠する。そして心も身体もリセットした状態で1日を始める。すると活力に満ち、効率的に仕事をこなすことができるのだ。

「いい職場」では何を行っているか?


幸福度の高い社員が働く、活性化した「いい職場」では、心理的ディタッチメントを促進する仕組みがある。

たとえば、業務の目的と優先順位が明確に設定されている。そのため、自分で仕事をコントロールできる「自己決定感」が高く、時間ストレスが少ない。(自己決定感は別名「自律性」とも呼ばれ、リチャード・デシの「自己決定理論」の中核をなす。興味のある人はデシの著書を読んで下さい)

また「いい職場」では、社員同士の「ハイクオリティなつながり」が存在するため、対人ストレスも少ない。その反対に恊働して働くことが喜びや楽しみなどのポジティブな感情を生み、活力の源泉となる。

就業時間に柔軟性のあることも重要だ。とくに産前産後の女性や子育て中の社員など、フレキシブルに働く自由と、職場で助けあう思いやりのある関係が欠かせない。

最後に「いい職場」では、就業後にベタベタとしたつきあいがない。仕事と個人の生活の境界がはっきりしており、会社の義務的なつきあいなどでパーソナルな時間が侵害されることが少ない。

これらの仕組みや文化が、社員の就業時間後の心理的デタッチメントを促し、充分に回復した状態で社員を迎える。その結果、「いい職場」で働く社員には、会社に忠誠心をもつ人が多いし、定着率も高い。

有意義な仕事をしているハードワーカーは例外


ここまでソネンタグ博士の「心理的ディタッチメントをベースとした回復の研究」を振り返ってきたが、例外もあるという。それは、仕事が好きで好きでたまらない人だ。


自分の仕事に誇りややりがい、喜びなどのポジティブな感情を強く感じている人は、心理的ディタッチメントの効果が限られる。なぜならば、勤務時間後に仕事から無理矢理離れることで、ポジティブな感情のレベルが低下してしまうからだ。


有意義でやりがいのある仕事に恵まれた人は、仕事をしていても疲れにくい。職務中に「フロー状態」に入ることも多いから、感情的な疲労度もほとんどない。このような人は、見た目にはハードワーカーだが、本人はそう感じていない。なぜならば、仕事そのものが楽しく、いきがいだからだ。


このタイプの人は、勤務時間後に仕事のことを頭から追い払うよりも、別の習慣をもったほうがいいだろう。
たとえば、就寝前に「ポジティブ・ジョブ・リフレクション」する習慣がおすすめだ。これは寝る前に「今日もいい仕事をしたなあ」「充実した一日だった」と振り返り、仕事でお世話になった人に感謝を感じ、有意義な仕事ができる自分に幸せを感じながら、床につく。するとぐっすりと眠り、快活に目覚めることができる。

まとめ


いずれにしても、朝の目覚めの質がその日一日のウェルビーイングを予測するというソネンタグ博士の見解は興味深い。皆さんの目覚めはどうだろうか? そしてどのような目覚めを望んでいるだろうか?

参考文献

  • Sonnentag, S. (2003). Recovery, work engagement, and proactive behavior: A new look at the interface between non-work and work. Journal of Applied Psychology, 88, 518-528.
  • 平成22年国民生活基礎調査の概況、厚生労働省

執筆者の紹介

久世浩司 

ポジティブサイコロジースクール代表
応用ポジティブ心理学準修士(GDAPP)
認定レジリエンス マスタートレーナー
 
当スクール代表の久世浩司はポジティブ心理学レジリエンスを専門にしています。慶應義塾大学卒業後、P&Gに入社し、その後は社会人向けのスクールを設立。レジリエンス研修認知向上と講師の育成に取り組んでいます。NHK「クローズアップ現代」や関西テレビ『スーパーニュースアンカー』などでも取り上げられ、著書による発行部数は20万部以上。研修・講演会の登壇は上場企業から自治体・病院まで100社以上の実績があります。
 

主な著書
『「レジリエンス」の鍛え方』
『なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?』
『なぜ、一流になる人は「根拠なき自信」を持っているのか?』
『リーダーのための「レジリエンス」入門』
『なぜ、一流の人は不安でも強気でいられるのか?』
『親子で育てる折れない心』
『仕事で成長する人は、なぜ不安を転機に変えられるのか?』
『マンガでやさしくわかるレジリエンス』
『図解 なぜ超一流の人は打たれ強いのか?』
『成功する人だけがもつ「一流のレジリエンス」』
『眠れる才能を引き出す技術』
『一流の人なら身につけているメンタルの磨き方』
『「チーム」で働く人の教科書』


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