要約 幸せがずっと続く12の行動習慣

ソニア・リュボミアスキー(著)金井真弓(訳)

 

 

幸福度を高める実証研究がまとめられた本


ポジティブ心理学入門者へのおすすめの本の最後は、幸福度の調査研究で有名なソニア・リュボミアスキー博士の処女作である「The How of Happiness(邦題:幸せがずっと続く12の行動習慣)」です。
 

著者について

若手のリサーチ系ポジティブ心理学者として有名な博士は、その研究に対して過去に数々の賞を受賞し、話題のドキュメンタリー映画「Happy」にも出演しています。当スクール講師のイローナ・ボニウェル博士と同じロシア系ですが、非常にわかりやすく早口な英語を話す方です。数年前にシンガポールにもセリグマン教授らと招かれて講演会で登壇されたことがあり、ちょうど本書の原書が発売されて間もない時期で、テーマも本書と同じ幸福度の研究に関するものでしたが、膨大な量のプレゼンを弾丸トークで発表されていました。
 
現在は二作目となる「The Myth of Happiness(幸せの神話、Mythとは根拠のない俗説という意味)」が出版されています。今年7月のIPPA(国際ポジティブ心理学協会)世界会議でも大学の院生たちと最新研究の発表をするセッションがありました。会場は立ち見で溢れ変えるほどの盛況ぶりでしたが、残念ながら出産のためご本人は急遽欠席となり、その講演を聴くことはできませんでした。米国の女性ポジティブ心理学者の中では、リュボミアスキー博士はフレドリクソンと並ぶ人気講師だと思います。
 

幸福度における「40:50:10」とは?

さて、本書の企画の骨子には幸福度を決定づける「40:10:50」の研究があります。これは引用数もかなり多いリュボミアスキー博士らの執筆した研究論文(興味のあるかたはこちらからダウンロードしてください)がベースとなり、セリグマン教授もその著作「世界に一つだけの幸せ」において解説しているモデルです。原書では、それがパイの食べ残しとして表紙に表されています。 


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原書

その意味するところは、 「幸福度において約50%が遺伝で決定づけられた設定値に起因し、生活環境に起因すると思われるものは8〜10%程度であり、その残りの約40%はそれ以外の要因、つまり私たちの日々の意図的な行動によるものである」という考えです。

 

幸福度は遺伝か、習慣か?

この研究を講座で話すと、受講生の反応は二手に分かれます。
まず「遺伝で50%も決定づけられてしまうのか」と少々がっかりした様子を見せる人。大抵は、自分の幸福度をあまり高くないと感じている人です。「親からの遺伝で幸せかどうかが決まってしまう」とやや悲観的な見方をしがちです(私もこのグループの一人です)。
 
もう一つのグループは、比較的楽観的な物の見方をする人達で、私が教える機会をもった方々には女性が多く、「なるほど、40%も自分の行動や習慣次第で影響するのか」と前向きに考える人です。もともと幸福度は高い様子を見せている人達で、この知識を得てますます幸せになろうと熱心に受講されています。このようにして、ポジティブ心理学を学ぶと、幸せな人たちはもっと幸せになるのかもしれません...。
 

コントロール可能な40%に焦点を当てる

本書の中心テーマは「この意図的な行動で左右される40%の領域にフォーカスし、自分の新たな習慣次第でどうすればより長続きする幸せをてにいれることができるのか」を実証ベースの研究を紐解いて、12の行動にまとめたものです。
 
とてもリッチな内容の本書ですが、その中でも私のお気に入りは、幸福度を高める習慣について書かれた章よりも、「不幸で居続けないために手に入れるべき習慣」に関する内容でした。それは「ストレスや悩み、さらにはトラウマにどううまく対処し、つきあっていくか」というレジリエンスとPTG(トラウマ後の成長)の研究に関する箇所です。
 
私自身、ポジティブ心理学を自ら実践し、人様にコーチングし、受講生に教えていながら常々感じることですが、ポジティブ心理学は心理的に健常な状態、つまりスケールでいうとゼロから+2ぐらいの心理状態においては、非常に効果を発揮します。人によっては、びっくりするくらい幸せになり、創造性や能力を発揮します。
 
ところが、つらいことがあって心理的にマイナスに触れた場合、ポジティブ心理学で教えられていることを実行するのは「正直しんどい」ことがあります。普段ポジティブな感情を豊かにしているため、ストレスや困難に対しての心理的・感情的なバッファー(緩衝材)が内面に形成され、精神的に大きく落ち込んだり心が折れたりすることはないのですが、それでも気持ちが落ち込むときはあります。人として自然な姿でしょう。
 
そんなときは、無理に気分を高揚させて、ハイな感情にさせる「体育会系モチベーション法」ではなく、本書で上げられているようなマイルドな感情とムードの回復法を行い、家族や友人などと対話して、おいしいものを食べてゆっくり眠るほうが、私には合っていると感じます。
 

マインドフルネスと幸福度

ちなみに本書でも、最後の章でマインドフルネスが幸せになる行動習慣として紹介されています。私自身、瞑想を長く行い講師をしているためややバイアスがかかった物の見方をしていますが、ポジティブ心理学者は瞑想に対して好意的だと思います。「おすすめの本」として挙げた書籍の著者であるセリグマン教授も、フレドリクソン博士もシャハー博士も皆瞑想を習慣とされています。おそらく効果が高いからであろう、と予測します。


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幸福度に関する実証研究に興味がある方は、ぜひ本書に目を通して下さい。私の友人は、本書をベースにした「読書会」をシリーズで行っていますが、仲間と輪読するにも適した本としてもおすすめです。
 

目次

1 幸せがずっと続くためにすべきこと
・自分で変えられる40%に集中しよう
・幸福度の測り方
・幸せになるための最適な行動の選び方
2 幸福度を高める12の行動習慣
・感謝の気持ちを表わす
・楽観的になる
・考えすぎない、他人と比較しない
・目標達成に全力を尽くす
・内面的なものを大切にする
・身体を大切にする―瞑想と運動
3 40%の行動習慣が続く5つのコツ
・ポジティブな感情をより多く体験する
・タイミングをはかり、行動に変化を起こす
・社会的なつながりを大切にする
・意欲と献身的な努力をもって人と関わる
・行動は繰りかえすことで習慣になる


 

久世 浩司(ポジティブサイコロジースクール 代表)

執筆者の紹介

久世浩司 

ポジティブサイコロジースクール代表
応用ポジティブ心理学準修士(GDAPP)
認定レジリエンス マスタートレーナー
 
当スクール代表の久世浩司は、ポジティブ心理学とレジリエンスを専門にしています。慶應義塾大学卒業後、P&Gに入社し、その後は社会人向けのスクールを設立。レジリエンス研修の認知向上と講師の育成に取り組んでいます。NHK「クローズアップ現代」や関西テレビ『スーパーニュースアンカー』などでも取り上げられ、著書による発行部数は20万部以上。研修・講演会の登壇は上場企業から自治体・病院まで100社以上の実績があります。
 

主な著書
『「レジリエンス」の鍛え方』
『なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?』
『なぜ、一流になる人は「根拠なき自信」を持っているのか?』
『リーダーのための「レジリエンス」入門』
『なぜ、一流の人は不安でも強気でいられるのか?』
『親子で育てる折れない心』
『仕事で成長する人は、なぜ不安を転機に変えられるのか?』
『マンガでやさしくわかるレジリエンス』
『図解 なぜ超一流の人は打たれ強いのか?』
『成功する人だけがもつ「一流のレジリエンス」』
『眠れる才能を引き出す技術』
『一流の人なら身につけているメンタルの磨き方』
『「チーム」で働く人の教科書』

公開講座のご案内

 

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