夜と霧
人生の意義について考えさせられる本
著者はヴィクトール・フランクル。患者の人生の意義や意味を理解させることで精神を癒す「ロゴセラピー」の開発者として名が知られていますが、フランクル博士を世界的に有名にしたのは、「第二次世界大戦時にナチスに強制収容所に連行されるも、その後生き延びた精神学者」としての壮絶な体験です。
もともと小冊子として書かれたもの(原題は「或る心理学者の強制収容所体験)だったため、ページ数も少なく短い時間で読めますが、できれば誰にも邪魔されない落ち着いた時間を確保して、ゆっくりと精読していただきたい本です。とくにつらく困難なことがあった人生の節目で読み返したいと思わせる古典です。
内容の質も翻訳の質も高いため、未だ精神的に未熟な私が何か見解を伝えることはありませんが、一つだけ非常に心に残った文章があったため、それをお伝えしたいと思います。それは「何が生きる意味をもたらすか」についてです。
強制収容所では、フランクル博士はその専門性を買われて心理療法をしていました。とくに自殺を思いとどまらせることが主要な役割だったそうです。そこで、自殺願望を示した二人の男性のセラピーを行った例が書かれています。
「生きていることにもうなんにも期待がもてない」と、二人の患者は口にしていたのですが、そのうち一人に話を聞くと、外国で父親としての自分の帰りを待つ、目に入れても痛くないほど愛している子供がいることがわかりました。そこで「生きていれば、未来にあなたを待っている家族がいる」ということを伝え、気持ちを変えさせることに成功したのでした。
もう一人の場合は、家族ではなく仕事でした。彼は研究者で、あるテーマの本を数巻出版していたのですが、まだ完結はしていなかった。そのかけがえのない創造的な仕事をなしとげるまでは命を終えることはできない、という将来の希望を抱かせることになったのでした。しかも人類が生み出したもっとも悲惨で恐ろしい環境の中で...。
自分の強みを活かし、自分を超えた有意義な何かに対して貢献することは、つまり有意義な人生を送ることは、幸福度を高め満たされた人生を約束すると、セリグマン教授も伝えています。しかし、意義というものはわかりにくい。何が有意義な人生の目的なのかを知る人は多くはありません。ただ、本書は生きる意味の大切さと命の尊さを知らしてくれます。そして、平和な日本に住むことのありがたさを気づかせてくれます。
目次
心理学者、強制収容所を体験する
知られざる強制収容所
上からの選抜と下からの選抜
被収容者
119104の報告――心理学的試み
第一段階 収容
アウシュヴィッツ駅
最初の選別
消毒
人に残されたもの――裸の存在
最初の反応
「鉄条網に走る」?
第二段階 収容所生活
感動の消滅
苦痛
愚弄という伴奏
被収容者の夢
飢え
性的なことがら
非情ということ
政治と宗教
降霊術
内面への逃避
もはやなにも残されていなくても
壕のなかの瞑想
灰色の朝のモノローグ
収容所の芸術
収容所のユーモア
刑務所の囚人への羨望
なにかを回避するという幸運
発疹チフス収容所に行く?
孤独への渇望
運命のたわむれ
遺言の暗記
脱走計画
いらだち
精神の自由
運命――賜物
暫定的存在を分析する
教育者スピノザ
生きる意味を問う
苦しむことはなにかをなしとげること
なにかが待つ
時機にかなった言葉
医師、魂を教導する
収容所監視者の心理
第三段階 収容所から解放されて
放免
『夜と霧』と私――旧版訳者のことば(霜山徳爾)
訳者あとがき
執筆者の紹介
久世浩司
ポジティブサイコロジースクール代表
応用ポジティブ心理学準修士(GDAPP)
認定レジリエンス マスタートレーナー
当スクール代表の久世浩司は、ポジティブ心理学とレジリエンスを専門にしています。慶應義塾大学卒業後、P&Gに入社し、その後は社会人向けのスクールを設立。レジリエンス研修の認知向上と講師の育成に取り組んでいます。NHK「クローズアップ現代」や関西テレビ『スーパーニュースアンカー』などでも取り上げられ、著書による発行部数は20万部以上。研修・講演会の登壇は上場企業から自治体・病院まで100社以上の実績があります。
主な著書
『「レジリエンス」の鍛え方』
『なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?』
『なぜ、一流になる人は「根拠なき自信」を持っているのか?』
『リーダーのための「レジリエンス」入門』
『なぜ、一流の人は不安でも強気でいられるのか?』
『親子で育てる折れない心』
『仕事で成長する人は、なぜ不安を転機に変えられるのか?』
『マンガでやさしくわかるレジリエンス』
『図解 なぜ超一流の人は打たれ強いのか?』
『成功する人だけがもつ「一流のレジリエンス」』
『眠れる才能を引き出す技術』
『一流の人なら身につけているメンタルの磨き方』
『「チーム」で働く人の教科書』