【書評】
「人生を「幸せ」に変える10の科学的な方法」
ソニア・リュボミアスキー(著)
金井真弓(訳)
問題に対処するためのポジティブ心理学活用ガイド
今回は、幸福研究の第一人者ソニア・リュボミアスキー博士の本を紹介します。
原題「The Myths of Happiness: What Should Make You Happy, but Doesn't, What Shouldn't Make You Happy, but Does」
リュボミアスキー博士は、前著「幸せがずっと続く12の行動習慣」で、幸福を決定する3つの要因について解説をしています。
「遺伝的要因」と「環境的要因」によって私たちの幸せのほぼ6割が決定づけられていますが、残りの4割は、自らの「意図的行動」によってコントロールすることができます。
幸せになるには、自分が日々どのように考え、どう行動するかが重要な鍵となります。
■「幸せの神話」とは何か
幸せになることを望み、それを人生の目標とする人は多いでしょう。
私たちが「幸せ」について考えるとき、国や地域、文化あるいは家族や友人がもつ価値観、メディアや企業広告が伝える理想の世界などから影響を受けたり、自分の過去の経験から、「○○なら幸せになれるのに」「○○だから幸せにはなれないだろう」という「思い込み」をしている場合があります。
博士は、こうした思い込みを「幸せの神話」と呼び、危機的状況に陥ったとき、この「幸福の神話」に基づいた視点で考え、反応し、行動を選択することは有害であると指摘しています。
そして、“大人が経験しそうな”10の危機的状況における「誤った神話」をとりあげ、なぜそうした思い込みをしてしまうのか、それが幸せにどう影響するのかを検証しています。
■幸せを阻む「快楽順応」
人は状況に適応する能力を持っていますが、それはポジティブな経験に対しても作用します。
「出世したら」「お金持ちになれたら」「素敵な恋人ができたら」・・・こうした願いが叶っても、その状況を当然と思うようになり、さらに期待感が高まり、当初感じた喜びや感謝の気持ち、意外性や高揚感などは、時の経過とともに薄れていきます。
この「快楽順応」が私たちの幸せを阻む要因となっていますが、これは克服したり、防いだり、遅らせたりすることが可能です。博士は、快楽順応が果たす役割やプロセスを明らかにし、対処するための戦略を紹介しています。
■危機的状況を経験することの意義
「逆境を経験した人は、まったく逆境を経験しなかった人よりも、最終的には幸福になる」ことが研究で明らかにされています。
博士は、危機的状況とは「生まれ変わったり成長したりするチャンス、意味のある変化」であり、チャンスとは「それに備えているものを好む」と述べています。
本書の目的は、ポジティブ心理学やその他の分野の研究で明らかにされた科学的方法を活用して、思い込みを正し、私たちが「広い視野」をもって「賢い選択」ができるようになること、新たな危機に備え、幸福の可能性を高めることにあります。
人生では様々なライフイベントを経験します。仕事やお金、結婚生活や子どもとのかかわり、健康などの問題がネガティブな感情を引き起こし、ときにはトラウマになるような深刻な事態に直面することもあります。
博士は、「自分に最も関係がある危機的な状況が書かれたところ、最も興味があるところ」から本書を読み始めることを勧め、自分自身が抱える問題やネガティブな経験を直視して分析し、思い込みを正し、望ましい行動を選択して問題解決をするチャンスを私たちに与えています。
本書はポジティブ心理学の応用実践編であり、“大人の”レジリエンス力を高めてくれる、とても心強い一冊です。
目次
prologue 「幸せ」の神話からわかったこと
PARTⅠ 「仕事」と「お金」にまつわる誤った神話
01 理想の仕事に就けば、幸せになれる
02 貧乏だと、幸せになれない
03 お金持ちになれば、幸せになれる
PARTⅡ 「人とのつながり」にまつわる誤った神話
04 理想の人と結婚すれば、幸せになれる
05 パートナーとの関係がうまくいかなかったら、幸せになれない
06 子どもがいれば、幸せになれる
07 パートナーがいないと、幸せになれない
PARTⅢ 「年齢」と「健康」にまつわる誤った神話
08 検査結果が陽性だったら、幸せになれない
09 「夢がかなわない」とわかったら、幸せになれない
10 「人生で最良のとき」が過ぎたら、幸せになれない
Epilogue 「幸せ」が本当にある場所
■資料
●「幸せがずっと続く12の行動習慣」の紹介はこちら
http://www.positivepsych.jp/pp6/book10.html
2014年9
月25日
中川由美子(ポジティブ心理学コーチング課程修了)