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【書評】
ポジティブ・リーダーシップ

原題: Profit from the Positive
マーガレット・グリーンバーグ、セニア・マイミン(著) 月沢季歌子(訳)

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■本書の概要と著者について51iTa8jjX0L._SX337_BO1,204,203,200_.jpg

今回ご紹介するのは、2人の経験豊富なエグゼクティブコーチによって書かれたポジティブ心理学の実用書です。著者の2人は、セリグマン教授の創設したMasters of Applied Positive Psychology (MAPP)の第一期卒業生でもあります。

本書が、他のポジティブ心理学実用書と最も異なる点は、「実践的で信頼できる」という一言に尽きると思います。それもそのはず、本書は研究者によってではなく、ポジティブ心理学を学んだ「ビジネスリーダー」によって「ビジネスリーダー」のために書かれた本だからです。最新研究によって裏付けされた数々のアイディアやツールの紹介はもちろんのこと(末尾の引用参考文献は6ページにもわたります!)、著者自身のエグゼクティブコーチとしての経験の中でその成果が証明された30以上もの手法を紹介しています。

テーマは、収益増加、生産性向上、人材採用、社員のモチベーションアップなど、昨今のビジネスリーダーたちが最も頭をかかえる課題ばかりです。書評ではほんの一部しか紹介できませんが、グーグル、ザッポスなど様々な企業での取り組み事例も沢山盛り込まれています。まさに、ポジティブ心理学の最先端研究と、エグゼクティブコーチとしての豊富な知識・経験が融合し、実践的ツールに翻訳された貴重な1冊と言えます。

■ 「マルチタスク」に潜む罠

パートIでは、成功するためのリーダーの要件として、生産性、レジリエンス、影響力、強みを活かすことの4つを挙げ、それぞれ解説しています。

例えば、多くのリーダーに共通する生産性低下の原因は「働き過ぎ」「マルチタスク」「仕事の先延ばし」だと言います。電話会議に参加しながら昼食をとり、パソコンでメールをチェックし、携帯にメッセージが入ればすぐにチェックする・・・。忙しさを理由につい誰でもやってしまいそうな「マルチタスキング」ですが、一つの作業から別の作業へと集中の対象を切り替える際に生じる「切り替えコスト」は想像以上に大きいと言います。

メール受信のたびに返信する切り替えコストは年間700億ドルと推定されており、作業の切り替えによって生産性が4割低下するというデータもあります。更に、ソーシャルメディアによる仕事の中断で生じる生産性とイノベーションの損失は年間6500億ドルにも及ぶそうです。また、革新的なアイディアや難題の解決策は、作業を切り替えていないときに最も浮かびやすい(例えばジョギング中やシャワー、寝ている時など)として、「マルチタスク」の危険性を示しています。

■ 最高の人材を探すのではなく、最適な人材を見抜く人材採用

パートIIでは、従業員の採用、エンゲージメント、会議運営、業績評価など、ポジティブ心理学をチーム全体や一般的な実務に活用することに焦点が置かれています。

人材採用に頭を悩ませた経験のない経営者や人事マネージャーはいないでしょう。最適な人材の採用は非常に難しく、コストもかかり、採用の失敗によるコストもまた莫大です。コンサルティング会社の調査によると、1人の採用にかかるコストは、給与の5倍になるとの結果が出ています。また、「創業以来の誤った決断による誤った採用にかかった費用を合計すると、1億ドルを越える」とはザッポスCEOの言葉です。

よくある落とし穴の一つに、技術スキルを過度に重視してソフトスキルを軽視する、という点が挙げられています。ある研究者がフォーチュン500企業のうち100社以上の職務明細書を調べた所、要求されるスキルの3分の1が技術的なことであり、残りの3分の2は対人関係スキルであることが分かったそうです。また、特異な企業文化にマッチするかどうかも、決して軽視すべきではないと述べてます。

採用した社員が定着し、イキイキと働いて最高の能力を発揮できている会社には、人材採用に関する共通の成功の秘訣があると言います:「履歴書に騙されないこと」「過去から未来を予測すること」「企業文化に合う人を選ぶこと」。グーグルやサッポスの事例をあげながら、それぞれのポイントについて詳しく解説しています。

■ 従業員の仕事スイッチをONにして、可能性を最大限に引き出す秘訣 

限られた従業員数の中で労働力を最大化させるということは、どういうことなのでしょうか?従業員を馬車馬のように働かせて、エネルギーを最後の一滴まで絞りとる・・・というのは、一見昔の話のようですが今でもまだまだ似たような現実が見られるようです。そのような働き方では、従業員はやがて疲弊し、身体的、あるいは精神的に追いやられるか、その前に見切りをつけて離職してしまうのがオチでしょう。企業にとっても莫大な損失です。

そうならない為の鍵となるのが従業員の「エンゲージメント」(従業員が自分の仕事や同僚、会社に対して、いかに強い関わりや結びつきを感じているか)だと言います。ギャラップ社の調査では、エンゲージメントが強い従業員ほど、生産性が高く、顧客を大事にし、安全にも気を配り、離職しにくいという事が分かっています。

では、エンゲージメントを強めるにはどうしたらいいか?様々な要素の中で最も重要なのが「強みを仕事に活用すること」だと言います。ギャラップ社によると、日々の仕事の中で、自分の強みに集中する機会に恵まれた従業員は、仕事に対するエンゲージメントが6倍強くなり、更には、そうでない人に比べて3倍も質が高い人生を送る、との調査結果が出ているそうです。

特に私たち日本人は、世界的にも真面目で働き過ぎな人種だと言われており、起きている(生きている)うちのかなりの時間を仕事に費やしています。仕事が、仕事人生のみならず、人生そのものに大きな影響を与えるのも、ある意味当然のことと言えます。このことに1人でも多くのリーダーが気付き、今日できることから始めることを、著者は心から願っているに違いありません。

■ 終わりに

著者の1人のグリーンバーグは、在学中の2005年からこの本の出版を夢見ていました。当時はポジティブ心理学がまだ一般的に認知されておらず、せっかくの最新研究もビジネス現場に応用されることを知らずにいたのをもどかしく思っていたからです。「多くの課題に頭をかかえるリーダーたちの1人でも多くにポジティブ心理学を活用して成功して欲しい!」という彼女の強い想いが、今こうして形になり、世界中で読まれている事を同級生としてとても嬉しく誇りに思います。


はじめに
パートI  リーダーについて  
 第1章 生産性の高いリーダーとは?―時間管理より重要なこと
     1 「とにかくやってみる」を「とにかく計画する」に変える
     2 自分をだまして行動を起こす
     3 目標を立てるだけでなく、習慣にする
     4 より少なく働いて、より大きな成果を出す
 第2章 逆境に負けないリーダーとは?——自分のケツをひっぱたく
     1 あきらめるのでなく、専門家であることをやめる
     2 探検家になる
     3 自分との議論に勝つ
 第3章 感染力の強いリーダーとは?——部下ではなく、自分の感情をコントロールする 
  1 ハクション効果に注意する
  2 自分の中のグチ男・グチ女を手なずける
  3 コントロールフリークにはならない
 第4章 強みを活かすリーダーとは?——うまくいっているものを最大活用する
  1 間違った質問をしない
  2 失敗ではなく、解決方法を見つける
  3 自分の強みは自分しかわからない
パートII  チームについて 
 第5章 人材採用——最高の人を探そうとするか、最適な人を見抜くか?
  1 履歴書に表れないことを選考の基準にする
  2 過去を掘り起こし、将来を予測する
  3 特異な企業文化に合う人を選ぶ
 第6章 従業員エンゲージメント——最高のものを引き出すか、最大のものを得るか?
  1 本を読むだけではいけない
  2 強みをチーム競技に変える
  3 業績が悪い人を解雇せずに、奮い立たせる
  4 頻繁に称えて励ます 
 第7章 業績評価——相手を変えるか、ダメにするか?
  1 強みを追求しつつ弱みも無視しない
  2 容易に達成できる目標やあいまいな目標を設定しない
  3 過去を振り返るだけでなく将来も見る
  4 不満を伝えても叱らない
 第8章 会議革命——エネルギーを消耗する場になるか、喚起する場になるか?
  1 会議の最初にやる気を起こさせる
  2 ピーク・エンドの法則を実現する
  3 出席者全員に関与させる 
パートIII  ポジティブを仕事に活かす 
 第9章 ポジティブなはみ出し者——今日から始められる3つのこと
  1 抵抗に抵抗しない
  2 小さなことから始める
  3 専門用語を使わない
  4 あえて裏口を利用する
解説
リーディングとディスカッションのための手引き
読書ガイド 
引用参考文献

2015年11月
神谷雪江(Masters of Applied Positive Psychology修了)

執筆者:神谷雪江(かみや ゆきえ)


米・ペンシルベニア大学大学院 応用ポジティブ心理学修士課程(MAPP)第一期生。修了後は、日本で人事コンサルティング会社に勤務し、ポジティブ心理学の、組織・人事への応用に従事。2009年より米・ボストンに移り、グローバル人材の採用や翻訳業に従事。 強み診断ツール「Realise2」の翻訳にも携わる。

神谷さんが執筆した『ペンシルベニア大学MAPP回想録』はこちらLinkIcon