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【書評】幸福の習慣

トム・ラス (著), ジム・ハーター (著), 森川 里美 (翻訳)



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米・ギャラップ社の世界各国における調査に基づく「幸福の5つの要素」とは?

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本書は海外で話題となった「Wellbeing」の翻訳書です。

Wellbeing(Well-beingとも表記されます)とは、「精神・身体が最適で健康な状態」を意味し、一般的には「幸福度」のことを示します。ポジティブ心理学者の中には、自らの研究を「Happiness Study」と呼ばれるのを避け、心理学用語である「Well-being」を好む人が多いのですが、海外で良く売れたポジティブ心理学の書籍はタイトルに「Happiness」が使われている(例「Happier」「Authentic Happinesss」「The How of Happiness」)ことから、一般人にはWell-beingよりもHappinessのほうが馴染みは良いようです。

さて、本書ではウェルビーイング、つまり幸福な状態になるための「5つの要素」が書かれています。これらの要素は、大統領選挙などの統計調査で有名な米・ギャロップ社が世界150カ国における調査の結果、導き出したもの。具体的には

  • Career Wellbeing(キャリア ウェルビーイング)
  • Social Wellbeing(ソーシャル ウェルビーイング)
  • Financial Wellbeing(フィナンシャル ウェルビーイング)
  • Physical Wellbeing(フィジカル ウェルビーイング)
  • Community Wellbeing(コミュニティ ウェルビーイング)

の5つです。

ポジティブ心理学に詳しい方であれば、「ウェルビーイングの理論とは、どこかで聞いたことがあるな...」と思われる人もいるかもしれません。実は、ポジティブ心理学の創始者の一人であるマーティン・セリグマン教授も、その近著「Flourish(未翻訳)」において「ウェルビーイング理論(Theory of Well-being)」を提唱しています。その新理論も5つの要素から構成されており、具体的には

  • Positive Emotion(ポジティブな感情)
  • Engagement(エンゲージメント)
  • Relationship(ポジティブな人間関係)
  • Meaning and Purpose(意義と目的
  • Accomplishment(達成)

となり、その頭文字をとって「PERMA」と呼ばれています。どちらが正しいのか、といった議論は避けますが、ギャロップ社がなぜこのような5つの要素をウェルビーイングとしたかについては、その利用目的を考えると見えて来ます。

ギャロップ社と言えば有名なのが「ストレングス・ファインダー」です。日本でも「さあ才能(じぶん)に目覚めよう」の書籍によって広く知られるようになった、強み診断ツールです。「さあ才能に...」を購入すると、裏表紙にアクセスコードが袋とじにされており、ギャロップ社のホームページから「ストレングス・ファインダー」による診断が無料で行うことができます。

この画期的な(?)仕組みによって、同書は世界的なベストセラーになりました。(著者のマーカス・バッキンガムがギャロップ社を辞めて独立したこと、そしてストレングス・ファインダーに多少の改良があったことから、ギャロップ社は海外では「StrengthFinder 2.0」という書籍を自社出版し、こちらもビジネス書のベストセラーランキングで常に上位にランクインしています。ただし、日本では、「2.0」の書籍の翻訳はされていません)

この「成功法則」にならって、本書「Wellbeing」も、本を購入するとギャロップ社が開発した「Wellbeing Index」サイトから、自分の幸福度の診断が無料でできる仕組みになっています。これが海外(英語圏)で本書がベストセラーになった理由の一つでしょう。しかしながら、「Wellbeing Index」の日本語版は(ギャロップ社がリーマン・ショック時に日本オフィスを撤退したためか)出ていません。本書は診断ツールと併せたときに、その真の価値を発揮するため、非常に残念なことです。

このWellbeing Indexは、個人や法人はもちろん、地域社会や国家政府でも活用可能なように設計されているようです。ギャロップ社は、Wellbeingに関する国ごと・地域ごと(米国内では州ごと)のデータを定期的に計測・発表しており、その数値を向上し、より住みやすい社会を目指す国や市町村が、ギャロップ社からのコンサルティングを受けているようです。その用途目的を鑑みて、「Social Wellbeing」や「Community Wellbeing」は外せない要素だったのかもしれません。

本書の「強み」は、その読みやすさにあります。英語力を伸ばしたい方は、ぜひ原書「Wellbeing」にチャレンジしていただきたいのですが、前作「StrengthFinder 2.0」同様に著者のトム・ラス(Tom Rath)は、難解になりがちな統計データからの結論や洞察を、非常に平易な言葉で簡潔に表現することに長けています。日本語訳も丁寧にされていますが、あっという間にストレスなしで読めると思います。しかもその知識はかなり深く、読了後に「少し賢くなったような気がする」と感じ、その内容を誰かに話したくなるという衝動に駆られるのではないか、と思います。その意味ではマルコム・グラッドウェルの作品の読後感と似ているかもしれません。

私のお気に入りは二点あります。
一つ目は、第一章のキャリアにおけるウェルビーイングです。

「あなたは、毎日自分のしていることが好きですか?」

というシンプルな問いに答えることから、仕事・キャリアにおける幸福度の自己理解は始まります。自分の仕事が好きか。自分の仕事に熱意を感じているか。自分のためではなく、他人のために今の仕事をしていないか。基本的でありながら、いい人生やいいキャリアを送るために必要なことを考えさせられました。

仕事やキャリアが満たされている人の共通点としては、エンゲージメントが高いことが挙げられます。ここでいうエンゲージメントは、ギャロップ社が独自の量的調査によって導き出した12の設問(通称Q12)の結果出た数値のことを指しますが、たとえば自分の仕事の満足度・幸福度を高めるためには「自分の強みを毎日活かすことができるように仕事を組み立てる」ことが考えられます。そのためには、ストレングス・ファインダーやVIAなどで、自己の強みを把握し、創造力を働かせて新しい活用法を考える必要があります。多少手間はかかりますが、効果は高い。

私自身は、既にその一連のプロセスを終え、キャリアチェンジも含む実行を果たしていたため、英語で「Wellbeing Index」で自己診断したときに、キャリア・ウェルビーイングは問題がありませんでした。しかしながら、この診断をして気づかされたことがありました。それは自分の「ソーシャル・ウェルビーイング」、つまり人間関係の幸福度が他の要素と比べて著しく低かったことです。

私の二つ目のお気に入りは、この「人間関係を幸福にするには」の章です。そこでは、いかにポジティブな関係性を形成するかが、具体的に記されています。たとえば、友人・家族・同僚と過ごす時間を1日合計6時間以上取ること。幸せでいるためには、人とつながる「質」ももちろん大切ですが、最低限の「量」も不可欠なわけです。1日24時間のうちで睡眠時間を7〜8時間とすると、起床時間のうちの約3分の1は誰かと共にいる時間を過ごしたほうが良いということです。私は一人で仕事を行うことを好む傾向があったため、意識的にワークスタイルや生活習慣を変えないとこの条件を満たすことができませんでした。一人暮らしの人であれば、さらに大変だと思います。

また、親友が職場にいるのといないのとでは、先に挙げた仕事へのエンゲージメントも、人との関係性による幸福度も、かなり違いが出るとのことでした。これは非常に納得がいく見解でした。私自身、海外転勤をした当初のことですが、周りに親友と呼べる同期や仲間がいなくなり、さらに仕事でうまくいかないことや上司との関係性などが重なり、かなり精神的に落ち込んだ(つまり幸福度が低下した)経験があったからです。その後、親友と呼べるビジネスパートナーがいる職場に移ってからは、幸福度もV字回復しました。

繰り返しになりますが、Wellbeing Indexの日本語版が出ていないことは、本書の価値を限定していますが、それでもポジティブ心理学の幸福度に関連する研究の知識を高める上でも、この本は学ぶところが多いです。

多忙な方で、わかりやすい、読みやすい幸福度研究の本を求めている方に、おすすめします。


目次


はじめに
1章 仕事の幸福とは?
2章 人間関係の幸福とは?
3章 経済的な幸福とは?
4章 身体的な幸福とは?
5章 地域社会の幸福とは?
6章 人生を価値あるものとするために


久世 浩司(ポジティブサイコロジースクール 代表)