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【書評】
成功するにはポジティブ思考を捨てなさい
—願望を実行計画に変えるWOOP の法則—

原題: Rethinking Positive Thinking: Inside the New Science of Motivation
ガブリエル・エッティンゲン(著) 大田直子(訳)

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理想の未来を実現するための活用ガイド51Urqp+42vL._SX339_BO1,204,203,200_.jpg

本書は、ポジティブシンキングやモチベーションに関する長年の研究をもとに、誰もがきっと心の奥で抱いている「理想の未来」を実現するための活用ガイドです。

ポジティブ思考の様々な有益性は今や一般的に広く認知されています。理想の未来を実現するという目的においてはなおさらではないでしょうか。例えば、「自分が抱いている夢や理想を具体的に思い描く」というプロセスが夢の実現に寄与すると信じている人は少なくないと思います。私自身もその1人でした。

本書の中で、著者は「将来についてただ夢見るだけでは、その夢や願いがかないにくくなる」と述べています。さらに、理想の未来を思い描くことは、夢を実現する助けにはならないどころか夢の実現を妨げてしまう可能性がある、という逆説を唱えています。「夢を見るという心地よい行為によって、人は頭の中で願いをかなえてしまい、現実世界で困難を切り抜けるために必要なエネルギーを吸いとられてしまう」というのです。

では、どうすれば夢と現実をつなげることができるのか?理想の未来に対する私たちのモチベーションを実際に高めてくれるものは何なのか?著者自身が20年にわたって追求し、行き着いた答えが「メンタル・コントラスティング」(後に紹介)です。そして、メンタル・コントラスティングを誰でも簡単に実践できるようにと練り上げたツールが「WOOP」(後に紹介)です。

■ ポジティブ思考が夢の実現を妨げる

ポジティブな空想は本当に夢の実現を妨げてしまうのでしょうか?減量プログラムに登録している肥満女性を対象にした研究によると、ついドーナツを食べてしまうなどのネガティブな(より現実的な)自分を想像した女性は、やせて魅力的になった自分を強く思い描いていた女性よりも、平均して11キロも多く減量に成功するという結果が出ました。この信じがたい結果を検証するため、著者自身が長年にわたって研究手法をあれこれ変えながら何度も研究を繰り返したところ、同じ結果が繰り返し見られたそうです。多くの人たちが長年抱いていたイメージとは裏腹に、「過去の経験とかけ離れたポジティブな空想や願い、そして夢は、充実した人生に向けて行動するモチベーションには変換されなかった」と著者は結論づけています。

■ メンタル・コントラスティング(頭のなかでの対比)

研究結果を見る限り、空想にひたることが悪のように思われてしまうかもしれませんが、それ自体が絶対的に悪いというわけではありません。ポジティブ思考だけでは、夢はかなわないどころか夢から遠ざかってしまうけれど、一方で様々な障害や壁などのネガティブな空想だけで頭をいっぱいにしてしまっては、人は頑張り続けることが難しいのも現実です。

「人を立ち上がらせ、前進させる最善の方法は、ポジティブに夢を見たすぐあとに、夢へと続く道に立ちはだかる現実と対決させること」だとして、この頭の中での対比(名付けてメンタル・コントラスティング)こそが現実と夢をつないでくれる方法だと述べています。

メンタル・コントラスティングでは、理想の未来をイメージし、それと同時にその夢を実現する上で障害となりうるものを具体的にイメージします。あまり現実味のない理想の未来像に、壁や障害などのネガティブで現実的な要素をプラスすることで、不思議にも夢を見ながらなおかつ行動することが可能になると言います。つまり、障害はもはや障害ではなく、夢を実現させるための重要な要素ということになります。

■ WOOP

メンタル・コントラスティングは既に様々な分野で検証され、その成果が認められています。ダイエット、学校や職場での成績向上、人間関係の構築、恋愛、リハビリ、飲酒などの悪い習慣を断つ、運動習慣などの良い習慣を構築する、食生活改善などです。このツールを、日常生活の中で誰でも簡単に実践できるようにと著者自身が練り上げたツールがWOOPです。

WOOPとは、Wish(願い)、Outcome(結果)、Obstacle(障害)、Plan(計画)の4つのステップの頭文字を取ったものです。その実践の仕方とは:

(1)あなたの中にある最も重要なWish(願い)が何かを見つけ、確認する。
(2)その願いを達成することで得られるOutcome(結果)を具体的に想像する。
(3)願いをかなえるのを邪魔している最大のObstacle (障害)を見つけ、望みどおりには事が運ばない状況を鮮明にイメージする。
(4)その障害がいつ、どのような状況で現れるかを具体的にイメージし、その障害に負けないための対策を考える。「もし〜なら、◯◯しよう」といった、障害に対する具体的なPlan(計画)を立てる。

WOOPを日常的に、かつ長期的に実践すれば、特定の問題や願いを解決できるだけでなく、有意義で安定した幸せな生活を送ることができると著者は述べています。

本書は以下の問いで締めくくられています。

「あなたの切なる願いは何だろう?
なぜあなたはそれを実現しようとしないのか?」

夢を実現する上で障害はつきものです。でも、その障害から目を背ける必要はなく、人は障害をモチベーションに変換することができるということを、本書は科学的根拠をもとに教えてくれています。夢をかなえたいと願う人にとって、とても心強い一冊ではないでしょうか。

目次

著者の言葉
はじめに
Chapter 1 ポジティブ思考は毒になる  
 楽観主義という“カルト”
 「願ってもかなわない人」ほどよく願う
 「やせた私!」を思い描くとダイエットに失敗する
 ポジティブな夢が将来をダメにする
 「リハビリは楽だ」と思うとリハビリできない?
 失われた十年———と失われたお金———の痛み
Chapter 2 ポジティブ思考のメリット 
  過酷な現実にはポジティブな夢が必要
  強い欲求がポジティブな空想を生み出す
  「つまらない仕事」から心が逃げ出す
  現実逃避が役に立つのは一瞬だけ
  ポジティブ思考の限界と向き合う
Chapter 3 心は「願い」にだまされる 
  ポジティブな空想とおいしいランチの関係
  「成功後」を想像すると成果が出ない
  心のなかの成就
  夢が情報処理能力をゆがめる 
Chapter 4 夢をリアルに追求する 
  メンタル・コンとラスティングの検証
  モチベーションより「あきらめる技術」が必要
  イケメンを用いた検証
  数学の成績を用いた検証
  「力を貸してください」と言えない人たち
  創造性についての検証
  ネガティブな思い込みを消し去る
  夢と現実をつなぎ合わせる
Chapter 5 無意識を利用する 
  無意識が将来と現実をすり合わせる
  願いがかなうと障害は消える
  障害を克服する「道具的行動」
  願いをかなえたい人ほど現実を見る
  ネガティブなフィードバックを活用する
  潜在能力を解き放つ
Chapter 6 WOOPのマジック 
  願いを取捨選択する
  メンタル・コントラスティングで成績を上げる
  計画を立てると障害は消える
  甘いものの誘惑に関する実験
  WOOPを試してみよう
  WOOPについての注意点
Chapter 7 人生をWOOPで回す 
  運動週間と食生活改善にWOOPを用いる
  なぜ、WOOPが健康増進に役立つのか?
  リハビリ、節酒にWOOPを用いる
  WOOPを恋愛に役立てる
  学校や職場でWOOPを活用する
  WOOPの約束
Chapter 8 ポジティブ思考を「毒」から「薬」へ 
  心の底にある願いから着手する
  「WOOPの習慣」を毎日の生活に組み込む
  WOOPの限界と注意点
  スマホでWOOP
  あらゆる願いには「微調整」が必要
  効き目は魔法のようには表れない
  ストレスの多い状況でのWOOP
  WOOPでしつこい不安と闘う
  「できない理由」をはっきりさせる
  子どもとWOOPアプリ
  WOOPで自由を手に入れる
謝辞

    

2016年2月

神谷雪江(Masters of Applied Positive Psychology修了)

執筆者:神谷雪江(かみや ゆきえ)


米・ペンシルベニア大学大学院 応用ポジティブ心理学修士課程(MAPP)第一期生。修了後は、日本で人事コンサルティング会社に勤務し、ポジティブ心理学の、組織・人事への応用に従事。2009年より米・ボストンに移り、グローバル人材の採用や翻訳業に従事。 強み診断ツール「Realise2」の翻訳にも携わる。

神谷さんが執筆した『ペンシルベニア大学MAPP回想録』はこちらLinkIcon