• ポジティブ サイコロジー スクール

お申し込み・お問い合わせ
TEL: 03-6869-6493
Eメール: info@positivepsych.jp

【書評】人勢塾

金井 壽宏 (著)

AmazonへリンクしますLinkIcon


ポジティブ心理学の人事・組織への応用のレクチャーをまとめた本

jinseijuku.jpg
本書は神戸大学大学院経営学研究科長の金井壽宏教授が2008年に企業の幹部を対象に行った「人勢塾」の内容をまとめた本です。
この土曜日に行われた研究会では、人材マネジメントの営みをポジティブに転化するための実践的学習の場として企画され、現在も第五期が開講されています。目的は「日本のポジティブHRM(前向き人材マネジメント)を生み出すこと」。ライン・マネジャーとその下で働く人々を元気にする前向きな人事の実現を目指す、意義ある活動です。このようなHRMが浸透することで、日本でもより多くの「いい職場」が創発されると思います。

記念すべき第一期では、主にポジティブ心理学やPOB(ポジティブ組織行動)の人事への応用をテーマにすすめられました。
そのカリキュラムは(下記の目次を見ていただければおわかりになりますが)、「ポジティブ感情(感謝)」「ストレングス(強み)」「エンゲージメント(フロー体験)」「レジリエンス(逆境力)」、さらにはマズローの人間性心理学に関するものまで、とても充実したものとなっています。現在、海外の大学院で教えられているポジティブ心理学修士課程などのPost-Graduateコースでも、これに近いカリキュラム・シラバス内容が組まれており、大学院に通わずとも国内の第一人者から日本語で有用な講義を受けられたこの「人勢塾」で、私も学んでみたかったと思いました。

金井教授は、(河合隼雄先生で有名な)京都大学で臨床心理を学ばれ、MIT(マサチューセッツ効果大学)大学院では組織論の第一人者であるエドガー・シャイン博士に師事された知識の系譜がおありなので、経営学・組織科学に心理学を活かし、わかりやすく解説してくれます。私のような「実用的な心理学」を求めているプラクティショナー(実践家)にとっては、心理学者が書いた書籍よりも、金井教授の文章を読む方が腹落ちがいいというか、スッと腑に落ちて理解が進むため、ほぼ全ての著作に目を通しています。

本書の「読みどころ」としては、ポジティブ心理学の書籍が日本に紹介される前から、心理学の論文で知識を得ていた金井教授の解説でしょう。心理学用語がしばしば出てくるため、多少わかりにくい箇所もあるかもしれませんが、本質をついた内容ですので勉強になります。とくに「フロー経験」やマズローの「自己実現」に関するレクチャーは、理論を開発した学者の考えをふまえながら、経験に裏打ちされた持論を伝えるバランスの良さが参考になりました。

次の「読みどころ」は、当スクールでも講師をして頂いている小屋一雄さんがゲスト講師として招かれた「強みを生かした組織づくり」の講義です。小屋さんは、米・ギャロップの日本支社で長らく活躍され、とくに世界で最も普及している強み診断ツールである「ストレングスファインダー」を活用した組織開発とコンサルティングの国内の第一人者です。

小屋さんの特別な点は、「強みの科学の生みの親」「ポジティブ心理学の祖父」と言われ広く尊敬された、元ギャロップ社CEOでストレングス・ファインダーの開発者であるドナルド・クリフトンに直接触れ、開発の背景や開発者の想いを共有していることでしょう。(詳しくはこちらのブログを参照下さい)診断ツールをその背景を知らずにビジネスライクに使うのではなく、その開発者にリスペクトを示しながら活用する態度は素晴らしいと思います。もう一つの強み診断ツールの国際標準である「VIA-IS」も、その開発者であるクリス・ピーターソン博士らの意志を理解するのとしないのとでは、その活用効果に違いがでるのではないか、と私は考えます。

強みに関しては、まず自分の代表的な強みを「把握」することが第一歩ですが、それだけではパフォーマンスや幸福度への効果は限定的または短期的なものとしておわっていまいます。その強みをいかに人生や仕事に活かすかが、成功の鍵となります。そのためにはコーチングやコンサルティングが必要となりますが、本書では強みの活かし方の小屋さんの持論が見られ、とても勉強になりました。

本書は(Amazonでチェックしたところ)、残念ながら現在は絶版となり中古本のみの購入となりますが、人事や組織に関わる人にはおすすめの本と言えます。金井教授の別の著書(例えば「危機の時代の「やる気」学」)などでも、ポジティブ心理学に関する説明が見られますので、そちらを読まれてもいいでしょう。

ポジティブ心理学の人事・組織への応用は、ネブラスカ大学で元全米経営学会会長のフレッド・ルーサンス博士らが進めるPOB(ポジティブ組織行動)、そしてその研究から発展したPsyCap(ポジティブ心理資本)、またはミシガン大学Rossビジネススクールのジェーン・ダットン博士やキム・キャメロン博士らが中心となって進めているPOS(ポジティブ組織論)など、現在も盛んに研究が続けられ、最新動向に目が離せません。

海外ではポジティブ心理資本やポジティブ組織論、またはリーダーシップへの応用などの書籍は多く出版されていますが、残念ながらそのほとんどが未翻訳です。しかしながら、人勢塾が掲げる「働く人々を元気にする前向きな人事」と同じような考えの輪が広がることで、国内でも意識の変化が生まれることを期待しています。


目次


序章 人勢塾への道―ポジティブ心理学を組織・人事に実践的に応用するために
第1章 ポジティブ心理学
第2章 「感謝」が社内を変えていく
第3章 「強み」を生かした組織づくり
第4章 「フロー経験」を知る
第5章 ピーク経験と自己実現
第6章 HRから組織を変える
第7章 逆境を乗り越える力
第8章 その後の人勢塾
巻末付録 「人勢塾」事前シラバス抜粋


久世 浩司(ポジティブサイコロジースクール 代表)