心的外傷後の成長(PTG)とは?

PTGとレジリエンスを理解する

2013年10月
2022年10月改訂

PTG(心的外傷後の成長)とは何か?


PTGはPost Traumatic Growthの略語で「心的外傷後の成長」と訳される心理的な状態だ。具体的には以下のように定義される。
 
「危機的な出来事や困難な経験との精神的なもがき・闘いの結果生ずる、ポジティブな心理的変容の体験」
 

奮闘し苦しんだ後に気づく「成長」

 
PTGは、米・ノースカロライナ大学シャーロット校心理学部教授のリチャード・テデスキ博士によって研究されてきた。博士はポジティブ心理学が生まれる前から、人生における大きな危機的体験や大変な出来事を経験するなかで、そのつらい出来事からよい方向、成長を遂げるような方向に変化する人々の調査を行っている。

PTGの研究は、実はトラウマのみに限定されていない(Tedeschi & Calhoun, 2004)。人生を変えてしまうようなつらい出来事(自然災害、ガンや心臓病の闘病、事故や怪我、事件や投獄、戦争体験)はもちろん、心の傷にはならないけれども高いストレスを伴う体験も含まれる。

その意味で、PTGの研究は、レジリエンス研修を行う講師やポジティブ心理学に興味関心のある人には知ってもらいたいと私は考える。
 

PTGとPTSDの違い

 
PTSDという言葉を聞いた事があるだろうか?

私がこの言葉に注目し出したのは、1995年の阪神淡路大震災の後だった。私も被災したその災害で、被災者の多くがPTSDの症状で悩んでいるという新聞記事を目にした。私は幸いその症状はなかったが、それ以来PTSDがニュースで報道されるたびに注意を払うようになった。1995年3月の地下鉄サリン事件、2001年の9.11テロ事件、さらには2011年の東日本大震災、世界各地での災害...。

「心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder)」、それが正式な名称だ。危うく死ぬまたは重症を負うような出来事の後に起こる、心に加えられた衝撃的な傷が元となる、様々なストレス障害を引き起こす疾患のことだである。
 
PTSDと診断されるまでには一ヶ月を待つ必要がある。震災などにより心にトラウマ(心的外傷)が残った場合、それが原因となって過度の不安や不眠、フラッシュバック(追体験)などの高いストレスを伴う症状が発生した場合、PTSDとなる。

PTSDと真逆とも思える研究がPTGである。テデスキ教授の研究では、ストレスやトラウマの経験は、人々にとって良い側面もあることが考えられている(Haidt, 2006)。
 

逆境体験の後に訪れる、ポジティブな成長

 
マーティン・セリグマン教授が1998年にポジティブ心理学を提唱するまで、心理学の多くの研究はストレスやネガティブな感情に関するものが中心だった。うつ病、不安症、統合失調症、そしてPTSD...。人の幸福度などに関する研究の割合が1だとすると、その21倍もの研究が、ストレスやトラウマがもたらすネガティブな影響に関するものだったという。
 
逆境体験は、心に傷を残し、感情をゆさぶり、血管や心臓に負担となり、健康を害する。これが常識だった。だからこそ、治癒・治療できる方法の研究が求められていた。

「過去に何かつらい出来事はありましたか?」と聞かれたら、ほとんどの人が「はい」と答えるのではないか。テデスキ博士に師事し、米・オークランド大学でPTG研究を行っている宅香菜子博士の調査によると、日本の学生に上記の質問をしたときに、多くの若者が「受験」と答えたそうだ。また、人によっては両親の離婚、仲間からの裏切り、失恋や離別、解雇や倒産も逆境体験となりうる。

長い人生やキャリアにおいては、逆境はつきものであり、避けて通ることはできない。そうであれば、困難を乗り越える力(レジリエンス)を身につけ、たとえ耐え難い経験に直面してもその後に成長がもたらされるかもしれないと考えるほうが将来に希望がもてる。
 

PTGにおける5つの成長

 
テデスキ教授は、カルホーン博士とともに「外傷後成長尺度」(PTGI)を開発した(Tedeschi & Calhoun, 1996)。これは何か困難な出来事を経験せざるを得なかった人が、それをきっかけにどう変わったと感じているかを測定するために作られたものだ。この尺度を使用した研究の結果、主に5つの成長を経験した人達がいることががわかった(Tedeschi & Calhoun, 2004)。
 
1)他者との関係:より深く、意味のある人間関係を体験する。
2)精神性的変容:存在や霊性への意識が高まる。
3)人生に対する感謝:生に対しての感謝の念が増える。
4)新たな可能性:人生や仕事への優先順位が変わる。
5)人間としての強さ:自己の強さの認識が増す。

 

震災での経験とPTG


私の人生で大変な経験は、先に挙げた阪神淡路大震災での被災だった。好運にも大きな怪我もなく、その後のストレスで視力が急激に低下して眼鏡が必要になったくらいだが、震災直後に悪夢のような光景を目撃したショックは忘れられない。家屋が倒壊し、電柱がへし折れ、アスファルトの道路がひび割れし、乗用車が転倒していた。

その体験はトラウマにはならなかったが、その数年後に「数千人が亡くなった東灘区に住んでいながら元気でいられたことはとても恵まれていた」ことに突然気づかされた。大げさではないが「自分は天に生かされていた」と強く感じ、深い感謝の念を感じ、霊性への意識が高まったのはたしかだ。
 
PTGは衝撃的な体験から年月を経て経験すると言われているが、これが私のPTGだったかどうかは定かではない。しかし、それから「価値ある人生とは何か、意義ある仕事とは何か」を自問するようになった。
 

「あなたを殺さないものは、あなたを強くさせる」

 
これはニーチェの言葉である。この逆説的な言葉は「人は内面の強さを見いだし、真の充足を発見し、成長するためには、逆境や困難を必要としている」という仮説を示している。
 

ユーダイモニア的な幸福体験?


PTGは楽な体験ではない。つらく痛みを伴う体験なので、ポジティブ感情よりもネガティブ感情のほうが多くなると考えられる。その意味ではヘドイズム的な幸福度は期待できない。しかしながら、その痛みを経て有意義な人生へとつながる可能性がある。ユーダイモニア的な幸福度が高まるのではないだろうか。

経営の世界でも「一皮むけた経験」(金井、2002)や「クルーシブル(試練)を経たリーダーシップ」(Bennis, W. and etc., 2003)が研究されている。人生やキャリアの節目で、過去の体験を振り返り大変な体験を内省することで、人との関わりや自己の強みを考え、優先順位を確認する。そのような貴重な学びのプロセスを経て、私たちは成長が得られるのだろうと考える。
 
久世 浩司(ポジティブサイコロジースクール代表)
 

引用文献

Bennis, W. G., & Thomas, R. J. (2002, September). Crucibles of leadership. Harvard Business Review (pp. 5–11).
Haidt, J. (2006). The happiness hypothesis: Putting ancient wisdom and philosophy to the test of modern science. Arrow Books: London.
Tedeschi, R.G., & Calhoun, C.G. (1996). The Posttraumatic Growth Inventory: Measuring the positive legacy of trauma. Journal of Traumatic Stress, 9, 455 – 471.
Tedeschi, R.G., & Calhoun, C.G. (2004). Posttraumatic growth: Conceptual foundations and empirical evidence. Psychological Inquiry, 15, 1 – 18.
金井壽宏 (2002). 仕事で「一皮むける」光文社新書


久世浩司 

ポジティブサイコロジースクール代表
応用ポジティブ心理学準修士(GDAPP)
認定レジリエンス マスタートレーナー
 
慶應義塾大学卒業後、P&Gに入社。その後、社会人向けスクールを設立し、レジリエンス研修の認知向上と講師の育成に従事。NHK「クローズアップ現代」、関西テレビ『スーパーニュースアンカー』でも取り上げられた。レジリエンスに関する著書、多数。累計発行部数は20万部以上。
 

主な著書
『「レジリエンス」の鍛え方』
『なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?』
『なぜ、一流になる人は「根拠なき自信」を持っているのか?』
『リーダーのための「レジリエンス」入門』
『なぜ、一流の人は不安でも強気でいられるのか?』
『親子で育てる折れない心』
『仕事で成長する人は、なぜ不安を転機に変えられるのか?』
『マンガでやさしくわかるレジリエンス』
『図解 なぜ超一流の人は打たれ強いのか?』
『成功する人だけがもつ「一流のレジリエンス」』
『眠れる才能を引き出す技術』
『一流の人なら身につけているメンタルの磨き方』
『「チーム」で働く人の教科書』