2014年5月(初稿)
2020年3月(改訂)
ポジティブ心理学 小史
ポジティブ心理学は海外だけでなく、日本国内でも注目されつつある研究・応用分野です。
ポジティブ心理学の関連書籍が数多く発刊され、幸福学をテーマにTV番組がNHKで放映され、ドキュメンタリー映画も制作・上映されています。ブータン王国のGNH政策に代表される国家の幸福度政策も関心が集まり、「幸福度ランキング」はさまざまな大学・研究機関から発表されています。
ポジティブ心理学が生まれたのは、当時全米心理学会 会長だったマーティン・セリグマン教授が所信表明演説によって示された20世紀の終わりです。その二年後に研究者向けの論文集「American Psychologist」において「ポジティブ心理学特集」が組まれ、本格的な研究として注目を集めました。セリグマン教授とフロー理論で有名なチクセントミハイ博士によるポジティブ心理学研究を定義づける論文(Seligman & Csikszentmihalyi, 2000)は、今でも最も多く引用されている心理学の文献の一つです。
続く2002年には、初期のポジティブ心理学の研究をまとめたセリグマン教授の「Authentic Happiness」(邦訳「世界で一つだけの幸せ」(書評はこちら))が全米でベストセラーになり、2005年にはTIME誌で、その後経営者向けのハーバード・ビジネス・レビュー誌で特集記事が組まれました。
さらには「ハーバード大学で最人気の授業」というキャッチコピーを掲げ、タル・ベン・シャハー博士の「Happier」(邦訳・同題)がマスコミで話題となり、同書は世界的なベストセラーとなりました。
2007年にはシャハー博士と共にハーバード大学で講師を受け持った経営コンサルタントのショーン・エイカーが「Happiness Advantage」(邦訳・幸福優位の7つの法則)を出版し、同書はビジネス書としてのベストセラーとなり、ポジティブ心理学がビジネスの世界においても関心をもたれるきっかけとなりました。
教育においては、2004年にセリグマン博士がペンシルベニア大学大学院に世界初の応用ポジティブ心理学修士課程(通称MAPP)を開講、その後イローナ・ボニウェル博士がセリグマン博士の支援を受け欧州初のMAPPを英・イースト・ロンドン大学大学院に開講しました。またチクセントミハイ博士がポジティブ心理学における世界初の博士課程を米・クレアモント大学大学院に開講しています。現在では世界各国のさまざまな大学・大学院でポジティブ心理学の学位を取得することができます
ポジティブ心理学の初期は「The Science of Happiness(幸福を研究する科学)」として世間の注目を浴びていました。ただ、心理学者の中には「ハピネス研究者」と呼ばれることを快く思わない人も存在し、とくに「ポジティブ心理学=黄色のスマイルマーク」は誤解を招くシンボルとして嫌う人も多く、現在では「Well-being(ウェルビーイング)」という用語が主流となっています。実際、セリグマン教授が近著「Flourish」で著した最新理論は「ウェルビーイング理論」と名付けられています。
教育においては、2004年にセリグマン博士がペンシルベニア大学大学院に世界初の応用ポジティブ心理学修士課程(通称MAPP)を開講、その後イローナ・ボニウェル博士がセリグマン博士の支援を受け欧州初のMAPPを英・イースト・ロンドン大学大学院に開講しました。またチクセントミハイ博士がポジティブ心理学における世界初の博士課程を米・クレアモント大学大学院に開講しています。現在では世界各国のさまざまな大学・大学院でポジティブ心理学の学位を取得することができます
ポジティブ心理学の初期は「The Science of Happiness(幸福を研究する科学)」として世間の注目を浴びていました。ただ、心理学者の中には「ハピネス研究者」と呼ばれることを快く思わない人も存在し、とくに「ポジティブ心理学=黄色のスマイルマーク」は誤解を招くシンボルとして嫌う人も多く、現在では「Well-being(ウェルビーイング)」という用語が主流となっています。実際、セリグマン教授が近著「Flourish」で著した最新理論は「ウェルビーイング理論」と名付けられています。
ポジティブ心理学を一言で解説すると?
幸福学を中心として発展したポジティブ心理学は、現在ではその研究が非常に多岐に渡っています。研究の進展・発展も早く、過去の論文や書籍の内容が陳腐化してしまうこともあります。また「ポジティブ心理学とは何か?」と言う問いにシンプルに答えることが難しくなってきました。
ひとつの答えとして参照できるのがポジティブ心理学の創始者たちの言葉でしょう。その一人であるセリグマン教授は、初期の論文でポジティブ心理学を
ひとつの答えとして参照できるのがポジティブ心理学の創始者たちの言葉でしょう。その一人であるセリグマン教授は、初期の論文でポジティブ心理学を
ポジティブ心理学は、個人とコミュニティが反映させる要素を発見し促進することを目指した、人の最適機能に関する科学的研究である
と伝えています。
従来の心理学が人の心理状態をマイナス5からゼロに回復・改善することを目的としているならば、ポジティブ心理学の目指すところはゼロ近辺に位置する「心理的健常者」をプラス5やプラス8に高めることにあると考えることができます。
またセリグマン博士の研究パートナーとして、ポジティブ心理学の基礎の確立に多大な貢献をした米・ミシガン大学のクリストファー・ピーターソン博士はポジティブ心理学についてこう伝えています。
ポジティブ心理学とは、人生を最も生きる価値あるものにするのは何かに関しての科学的な研究である。
ピーターソン博士は、セリグマン博士と共に楽観性の研究や強みと美徳の研究を行い、「Good Life(いい人生)」の追求を長い間行ってきました。そのピーターソン博士が「いい人生で最も大切なものは?」と聞かれたときに、いつも答えていたのが以下の言葉です。
Other people matter.
「他の人々との関わりが重要」。これがピーターソン博士が、満たされた人生や持続的な幸福度に関して大切にしてきた事柄でした。このシンプルな言葉のもつ意味は偉大だと思われます。広大な知識体系であるポジティブ心理学の森で道に迷ったとき、または人生において価値あるものは何かを見失ったとき、このピーターソン博士の言葉に立ち返ることで光明が見えてくるのではないでしょうか。
幸福度を高めるためには、一人で行うことができる手法が多く実証されています(Seligman, etc. 2005)。しかしながら、家族・友人・同僚と「質の高い絆」をもつことは、いい人生を送る上でも非常に大切であることがわかっています。
幸福度が高い人達の属性や行動を調べた研究では、その人達が一人で過ごす時間が少なく、親密性の高い人間関係を恋人や友人、家族などと保っていることが判明されました(Diener & Seligman, 2002)。また、最近の感情研究でも、ポジティブな感情を他者と共有することのメリットが重視されています(Fredrickson, 2013)。
幸福度を高めるためには、一人で行うことができる手法が多く実証されています(Seligman, etc. 2005)。しかしながら、家族・友人・同僚と「質の高い絆」をもつことは、いい人生を送る上でも非常に大切であることがわかっています。
幸福度が高い人達の属性や行動を調べた研究では、その人達が一人で過ごす時間が少なく、親密性の高い人間関係を恋人や友人、家族などと保っていることが判明されました(Diener & Seligman, 2002)。また、最近の感情研究でも、ポジティブな感情を他者と共有することのメリットが重視されています(Fredrickson, 2013)。
ポジティブ心理学の3つのレベル
ポジティブ心理学の研究は幅広くはありますが、俯瞰してみると主に3つの基礎研究領域に分けられることがわかります。
まず第一に「主観的なレベル(Subjective level)」が挙げられます。これは、喜びやウェルビーイング、満足度や充足度、幸せや楽観性、フロー体験などが含まれます。このレベルでは、何か意義ある良い行いをすること(Doing good)や善良な人であること(Being a good person)と同様に、良く感じる(Feeling good)が重視されます。
次は「個人のレベル(Individual level)」です。これはいい人生(Good life)を送るために何が必要か、ということであり、善い人(Good person)であるためにはどのような質が求められるのかを見いだす研究領域です。これには強みや美徳の研究、愛と許し、勇気や忍耐力やレジリエンス(逆境力)、知恵や才能、創造性や独創性といった研究が含まれます。
最後に「集団またはコミュニティのレベル(Group or community level)」があります。組織(Institute)のレベルとも言われることがある段階です。ここでは市民としての美徳や社会的責任、利他性や寛容性、仕事における倫理観や倫理観をもったリーダーシップなどが研究され、より善き市民と組織、地域の開発に向けて応用されています。
まず第一に「主観的なレベル(Subjective level)」が挙げられます。これは、喜びやウェルビーイング、満足度や充足度、幸せや楽観性、フロー体験などが含まれます。このレベルでは、何か意義ある良い行いをすること(Doing good)や善良な人であること(Being a good person)と同様に、良く感じる(Feeling good)が重視されます。
次は「個人のレベル(Individual level)」です。これはいい人生(Good life)を送るために何が必要か、ということであり、善い人(Good person)であるためにはどのような質が求められるのかを見いだす研究領域です。これには強みや美徳の研究、愛と許し、勇気や忍耐力やレジリエンス(逆境力)、知恵や才能、創造性や独創性といった研究が含まれます。
最後に「集団またはコミュニティのレベル(Group or community level)」があります。組織(Institute)のレベルとも言われることがある段階です。ここでは市民としての美徳や社会的責任、利他性や寛容性、仕事における倫理観や倫理観をもったリーダーシップなどが研究され、より善き市民と組織、地域の開発に向けて応用されています。
発展を見せるポジティブ心理学の応用領域
創始されてから15年のポジティブ心理学ですが、以前は「新しい潮流」と呼ばれていた分野が、その後数多くの研究がなされ、現在では心理学の一分野として確立されています。
クリックして拡大その研究領域・応用領域は多岐を極め、今でも拡大を続けています。左図はイローナ・ボニウェル博士の下で学んだ大学院生が作成した「ポジティブ心理学マインドマップ」です。いかに幅広い領域が扱われているかがわかります。
とくにその中でも期待されるのが下記の応用5分野でしょう。これらは2013年7月にLAで開かれた国際ポジティブ心理学協会世界会議で講演された100以上の議題の中で、数多く挙げられたトップテーマでもあります。
クリックして拡大その研究領域・応用領域は多岐を極め、今でも拡大を続けています。左図はイローナ・ボニウェル博士の下で学んだ大学院生が作成した「ポジティブ心理学マインドマップ」です。いかに幅広い領域が扱われているかがわかります。
とくにその中でも期待されるのが下記の応用5分野でしょう。これらは2013年7月にLAで開かれた国際ポジティブ心理学協会世界会議で講演された100以上の議題の中で、数多く挙げられたトップテーマでもあります。
- ・ポジティブ教育
- ・自己開発・コーチング
- ・組織開発・リーダーシップ
- ・ポジティブ ヘルス
- ・環境と行政政策
次の15年に向けてまだまだ発展を見せるポジティブ心理学。知識は陳腐化するため、継続学習が欠かせません。
特に最近では米国だけではなく、ヨーロッパ勢の研究が盛んです。英国やデンマークなど、ウェルビーイングに力を入れている国家も多く、相性が良いと思われます。またアメリカでの研究をそのまま鵜呑みにしない批判的精神も持ち合わせています
特に最近では米国だけではなく、ヨーロッパ勢の研究が盛んです。英国やデンマークなど、ウェルビーイングに力を入れている国家も多く、相性が良いと思われます。またアメリカでの研究をそのまま鵜呑みにしない批判的精神も持ち合わせています
久世 浩司
引用文献
Diener, E., & Seligman, M. E. (2002). Very happy people. Psychological science, 13(1), 81-84.
Fredrickson, B. L. (2013). Love 2.0: How Our Supreme Emotion Affects Everything We Feel, Think, Do, and Become. Penguin. com.
Seligman, M. E. P., & Csikszentmihalyi, M. (Eds.). (2000). Positivepsychology [Special issue] American Psychologist, 55(1).
Seligman, M. E., Steen, T. A., Park, N., & Peterson, C. (2005). Positive psychology progress: empirical validation of interventions. American psychologist, 60(5), 410.
Fredrickson, B. L. (2013). Love 2.0: How Our Supreme Emotion Affects Everything We Feel, Think, Do, and Become. Penguin. com.
Seligman, M. E. P., & Csikszentmihalyi, M. (Eds.). (2000). Positivepsychology [Special issue] American Psychologist, 55(1).
Seligman, M. E., Steen, T. A., Park, N., & Peterson, C. (2005). Positive psychology progress: empirical validation of interventions. American psychologist, 60(5), 410.
事務局へのお問い合わせ
Email: info@positivepsych.jp
TEL: 03-6869-6493
受付時間内(9:00 - 18:00)
不在の場合はご用件をお伝えください。折り返しご連絡いたします。