【書評】「幸せのメカニズム」
―実践・幸福学入門
前野隆司(著)
工学者による幸福学入門
今回は、前野隆司氏の本を紹介します。
工学者である前野氏は、人間の生活に役立つはずの科学技術が発達しても、終戦直後と比較して幸福度が変わっていないことに衝撃を受け、これが「幸福学」研究を始めるきっかけのひとつになったそうです。
本書の目的は、幸福とは何かを説明し、幸福学の今を明らかにすることだと述べています。
■「幸福学」に対する関心の高まり
2014年1月、NHKの白熱教室で「幸福学」が特集されました。
ポジティブサイコロジースクールでも講義・講演をされているロバート・ビスワス=ディーナー博士と、『「幸せをお金で買う」5つの授業』著者エリザベス・ダン博士が出演し、「幸福」とは何か、私たちの「感情」や、経済的豊かさ、社会的な繋がりと幸福との関係性などについて講義が行われました。
NHK白熱教室「幸福学」
http://www.nhk.or.jp/hakunetsu/happy/archives.html
心理学や経済学、脳科学などの様々な領域において「幸福」「ウェル・ビーイング」に関する学問的・科学的な研究がすすめられ、この「幸福学」の知見はビジネスや教育、医療そして政治など、幅広い分野で応用されています。
■フォーカス・イリュージョン
ダニエル・カーネマン博士のフォーカス・イリュージョンに関する説明が引用されています。
「人は所得などの特定の価値を得ることが必ずしも幸福に直結しないにも関わらずそれらを過大評価してしまう傾向がある」
科学技術の発展や経済的豊かさは、必ずしも私たちの幸せを約束するものではありません。では、幸福を導く要因となるものは何でしょうか。
前野氏は、幸福の要因を明らかにするために行われた「幸福の因子分析」について解説をしています。
■幸福の因子分析
インターネットでアンケート調査を行い、1500名の回答をコンピュータで数値解析した結果、以下4つの幸福の因子が導き出しました。
・自己実現と成長の因子 「やってみよう!」因子
・つながりと感謝の因子 「ありがとう!」因子
・前向きと楽観の因子 「なんとかなる!」因子
・独立とマイペースの因子 「あなたらしく!」因子
これらの4因子をどのように実践すれば幸せになれるか、これまでの研究によって明らかにされてきたことや、前野氏の考え・経験などが紹介されています。
■幸福学の研究
幸福については、これまで様々な研究がなされており、巻末付録「幸福に影響する要因四十八項目」に紹介されています。幸福をより深く理解するための手がかりとなるでしょう。
文化や国民性によって幸福の要因は違ってくるのか?
日本人の幸福とはどのようなものか?
本書にはそうした視点から記述されているところがあり、とても興味深く感じられました。
目次
序章 役に立つ幸福学とは
第1章 幸せ研究の基礎を知る
1 幸せの意味
2 幸せの測り方
3 幸福研究の動向
4 幸せは何と関係するのか
5 知っておくべき幸せの法則
第2章 幸せの四つの因子
1 幸せの因子分析
2 幸せのクラスター分析
3 「やってみよう!」因子
4 「ありがとう!」因子
5 「なんとかなる!」因子
6 「あなたらしく!」因子
7 守・破・離
第3章 幸せな人と社会の創り方
1 成熟と幸せ
2 社会デザインと幸せ
3 創造と幸せ
4 人材育成と幸せ
あとがき
謝辞
幸福に影響する要因四十八項目
参考文献
■資料
書籍紹介
●ロバート・ビスワス=ディーナー著「勇気」の科学―一歩踏み出すだめの集中講義」
http://www.positivepsych.jp/pp6/pg627.html
●エリザベス・ダン、マイケル・ノートン共著「幸せをお金で買う」5つの授業
http://www.positivepsych.jp/pp6/pg646.html
2014年9
月
中川由美子(ポジティブ心理学コーチング課程修了)