【書評】成功が約束される「選択の法則」
ショーン・エイカー(著) 高橋由紀子(訳)
ポジティブ心理学研究の集大成~ポジティブな現実を作り出すスキルを磨く
今回は、ポジティブ心理学第一人者ショーン・エイカー氏の本を紹介します。
原題「Before Happiness」
世界的ベストセラーになった「幸福優位7つの法則」(原題「Happiness Advantage」)では、「幸せは成功に先行する」という幸福の優位性を示しました。
エイカー氏は、成功と幸福感の関係に、見落としてきたものがあると告げています。
それは「幸福と成功の前に来るものは何か」ということです。
幸福と成功に先行するものとは、自分の世界つまり「現実」をどう認識するかであり、ポジティブな現実を作り出す能力を「ポジティブ才能」といいます。
■いくつもある現実に気づく
海軍の潜水艦に乗艦したエイカー氏は、「床が下にあるとは限らない」という体験をし、すべての状況には必ず複数の現実があることに気づきました。
「コップに入った水」を見て、「半分しかない」と思うか、「半分もある」と思うか。
悲観や楽観から離れ、実はそばに水差しがあって「コップに水を注ぎ足すことができる」ことに気がつくか。
この第3の事実、広い機会や可能性に気づく能力がポジティブ才能です。
本書では、ポジティブ才能5つのスキルが紹介されています。
スキル1 最も価値ある現実を選択する
スキル2 メンタルマップを作る
スキル3 一番力が出るスポット(Xスポット)を見つける
スキル4 ノイズを消去する
スキル5 ポジティブな視点の「植えつけ(インセプション)」
■ポジティブ才能PQは、3つの知性IQ・EQ・SQに先行する
戦場という危機迫る状況において、どう考え生き延びるか、心理学者が作成した2人の兵士のストーリーが紹介されています。
どんなに優れた知性を持っていても、希望を失い諦めては戦場で生き残ることができません。希望という戦術的思考を持ち、自らの3つの知性「認知能力IQ、感情の知性EQ、社会的能力SQ」を活用しポジティブな現実を作り出せるのだと信じることが危機を脱する重要な鍵となります。
■ポジティブ才能によりストレスを善玉に変える
エイカー氏の「ストレスを再考するプログラム」では、ストレスを感じる理由・ストレスの背後にある意味を考え、ネガティブな部分ではなくストレスのプラスの効果に焦点を当て、それを活かして使うことを学びます。
「もう一つの正しい真実を知る」というポジティブ才能のスキルを活用することで、私たちの健康や生産性に害をなすストレスも、善玉に変えることができます。
■ポジティブ・インセプション
持続する幸福と成功には、他者との関係性が重要です。
本書でも「与える」こと、他者をサポートする大切さが説明され、さらに自分がポジティブな現実を手にしたら、それを周りの人々に広げ、植えつけていく「ポジティブ・インセプション」を提唱しています。
「インセプション」は、レオナルド・ディカプリオと渡辺謙さんが共演したSF映画のタイトルで、この世界では、夢の中に入り込み、情報を盗んだり、ある考えを植え付けたりすることができます。
ディカプリオ演じる主人公にとって、「ポジティブな現実はネガティブな現実よりも人の心に植えつけやすい。ポジティブな現実は持続的な変化を起こすからだ」と解説されています。
アメリカの病院における従業員の幸福レベルを上げるための取組が紹介されていますが、ここで行われたことは、「微笑」と「あいさつ」というポジティブ行動でした。
この小さな行動習慣は、取組に否定的であった人にも感染し、人々が共有する「病院の現実」を一変させ、治療に対する患者の満足度を高め、病院の収益をも向上させました。
小さな行動であるほど感染しやすく、それがやがて大きな変化を起こすのです。
自分の思考や行動のパターン、他の人の考え、組織の文化や風土を変えていくのは難しいことですが、本書で紹介された多くの研究事例は、それが可能であることを教えてくれます。
「共有されるポジティブな現実は優れた文化となる」
エイカー氏の言葉がとても印象的でした。
目次
はじめに 幸福と成功の前に来るもの
序章 「ポジティブ才能」が成功の牽引役
スキル1 最も価値ある現実を選択する
スキル2 メンタルマップを作る
スキル3 一番力が出るスポット(Xスポット)を見つける
スキル4 ノイズを消去する
スキル5 ポジティブな視点の「植えつけ」
終章 ひらめきの瞬間はこうして生まれる
■資料
●「幸福優位7つの法則」の紹介はこちら
http://www.positivepsych.jp/pp6/book1.html
●ハーバード・ビジネスレビュー論文「PQ:ポジティブ思考の知能指数」の紹介はこちら http://www.positivepsych.jp/hbr/hbr1.html
●TED「幸福と成功の意外な関係」
http://www.positivepsych.jp/ted/ted7.html
●アダム・グランド著「GIVE & TAKE」の紹介はこちら
http://www.positivepsych.jp/pp6/pg632.html
「与える」ことと幸福と成功の関係を説く本です。
エイカー氏は、グラント氏を「ポジティブ心理学の天才」と賞し、他者との感情的つながりの重要性を示す彼の研究を紹介しています。
2014年7
月
中川由美子(ポジティブ心理学コーチング課程修了)