【書評】才能を磨く
―自分の素質の生かし方、殺し方
ケン・ロビンソン(著) 宮吉敦子(訳)
エレメントを見つけ、ウェルビーイングを実現するためのガイドブック
今回は、教育学者ケン・ロビンソン卿の本を紹介します。 本書原題 Finding Your Element
-How to Discover Your Talents and Passions and Transform Your Life
■才能は、オーガニックな土壌で育つ
2006年ロビンソン卿がTEDで行った講演「学校教育は創造性を殺してしまっている」は、再生回数が2500万回を超え、2億5千万人が見たと推定されています。
2010年、2013年にも講演し、ユーモアを交えながら現代教育の問題やあるべき形を示しました。
多様性を無視した工業的・製造業的な現代教育は、好奇心や想像力、創造性を阻んでいます。子供たちの才能を開花させるには、農夫が花開く条件を整えるようにオーガニックなプロセスが必要であり、「環境を整え可能性の風土を作り出すことが教育におけるリーダーシップの役割だ」と指摘しています。
■エレメントとは、才能と情熱が出会う場所
才能は、自分の中にある可能性であり、持って生まれた強み・弱みに関係します。
才能を発見するには「機会の有無」つまり経験することが重要です。
そして好きか嫌いか、楽しめるかを問い、情熱の対象となり得るなら、そこにエレメントを見出すことができます。
「喜びを与えるものに従え」
神話学者J・キャンベル氏の言葉が引用されています。
■エレメントにあるとき、ウェルビーイングの感覚が高められる
心理学者ソニア・リュボミアスキー博士は、幸福を決定する三つの要因を挙げ、「意図的行動、態度」が4割影響することを明らかにしました。
私たちは、自らの経験や努力によって幸福になることができるのです。
チベット仏教僧M・リカール氏は、「永続的な幸福の構成は一つの技術」だと表現しています。技術を磨くには心を鍛え、持続的な努力が必要です。
エレメントの探求においても、そうした自らの態度が重要なポイントになります。
ポジティブ心理学の父マーティン・セリグマン博士をはじめ多くの研究者たちが、より良く生きるための研究を行い、幸福について語っています。
ロビンソン卿は、彼らの言葉はエレメント探しについて語るものだと述べています。
幸福な人生にエレメントの探求は不可欠なのです。
■現代社会の問題に対処する
物質的に豊かであるはずの現代社会で、人生に目的や熱意を持てず、無気力や無関心が蔓延し、うつ病や依存症患者が増加し続けています。
メディアよる物質的欲望への刺激、経済不安、家族や地域コミュニティの価値観の変化が不安感を煽り、「もし○○なら幸せになれるのに」という誤解を生んでいます。
死を目の前に自らの人生を振り返ったとき、自分の夢や思い、愛する人を大切にしてこなかったことを悔いる人は少なくありません。
エレメントを探求し、本当の人生を生きているという感覚や自分の人生に価値を見出すことができれば、自分の強さや自分と世界との関わりに気付き、それが問題に対処する力となっていくでしょう。
■エレメントを探す
「水を得た魚」のように、本当の自分を生き生きと生きるために、すべきことは何か。
それは、足を踏み出すことです。
新しい行動に挑戦し、新しい場所を訪れ、新しい人々と会い、新しい機会に触れ、異なる状況や環境で自分を試す。やってみなければ、できるかどうか、楽しいかどうかも永遠にわからないままです。
本書には、15のエクササイズと、数多くの質問が用意されています。
「自分をさらけだす痛み」を感じるかもしれませんが、自分の現状、才能、情熱、態度、可能性を知り、エレメントを見つけたいと願うなら、すべてのエクササイズをするよう勧められています。
本書を手にし、自分を見つめ直すためのリラックスした時間をとってみましょう。
目次
はじめに「エレメント」とは何か?
Chapter1 エレメントを見つける
Chapter2 何が「できる」のか?
Chapter3 自分の中を掘る
Chapter4 何が「好き」なのか?
Chapter5 何をすると「幸せ」か?
Chapter6 世界との「接し方」を変える
Chapter7 「現状」を正確に知る
Chapter8 「同族」を探す
Chapter9 次はどうする?
Chapter10 足を踏み出す
2014年3月2日
中川由美子(ポジティブ心理学コーチング課程修了)
資料
■TED講演履歴
2006年「学校教育は創造性を殺してしまっている」How schools kill creativity
2010年「教育に革命を!」Bring on the learning revolution!
2013年「教育の死の谷を脱するには」How to escape education's death valley
■関連書籍に関する解説
マーティン・セリグマン「世界でひとつだけの幸せ」
ソニア・リュボミアスキー「幸福がずっと続く12の行動習慣」
トム・ラス「幸福の習慣」
ヴィクトール・フランクル「夜と霧」